「2ndはよりレコーディング作品ならではのアルバムを作ろうよと」
Interview & Photo by KAZUTAKA KITAMURA
今夏不定期ながらスタートした音楽雑誌Playerの新コーナー「Open The TREASURE BOX」。毎回そのミュージシャンにとって特別なこの1本という楽器をクローズアップするとともに、その楽器に出会うまでのストーリー、こだわりの部分を撮りおろし写真とともにレポートしていきます。8月2日発売Player9月号のFILE#3ではいまみちともたか愛用のフェンダー・ストラトキャスターを紹介。お気に入りのK&Tピックアップがマウントされた2シングルコイル構成のこのストラトは、ヒトサライのメインギターとして大活躍中だ。ヒトサライはいまみちが2014年、椎名純平(vo,key)、平山ヒラポン牧伸(ds)、岡雄三(b)と結成したスーパーバンド。満を持してのパーマネントバンドという風に見ているいまみちファンも多いかもしれない。かつて“No Synthsizer”をクレジットしていたギタリストが、ボーカリスト兼鍵盤奏者とバンドを組んだことは予想外だったが、2015年に1stアルバム『ディレクターズ・カット』をリリース。いまみちの独創的かつユーモラスなソングライティングの魅力は健在、何よりソリッドなギターワークが満載なのも嬉しかった。特にギターフレーズなどは意外なほどにストレートなオマージュ風味でもニンマリさせてくれた気がする。そして今年7月に2ndアルバム『嘘のようなマジな話』もリリース。『ディレクターズ・カット』とは一転、ソウルフルでウェットなテイストもフィーチャーされた、最高の大人のロックアルバムに仕上がった。前作では禁じ手のように抑えた、椎名の甘いファルセットも存分に味わえる。Player Blogではヒトサライの結成エピソードや、傑作2ndアルバム『嘘のようなマジな話』についてのインタビューをお届けしたい。「ミスティック」のウェットな質感なり、「はらゆら」「ウソマジ」などのクロスオーバーなR&Bテイストなど、意外性がありつつもこの面子ならではの素晴らしい音がたっぷりだ!
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ヒトサライ
嘘のようなマジな話
Hit Au Salai Records 7月27日
HITS-0002 2,778円(税抜)
「2枚のアルバムを合わせると今のヒトサライのステージ」
ヒトサライというバンドはどういう経緯で始まったんですか?
中島卓偉とULTRA SLACKERをやったときにヒラポン(平山牧伸)とタイム感とかが凄く合っていると思ったんだよ。2年くらい前にまたバンドを何とかしたいなって話をしていたとき、ロカビリーパンクジャズのライブに何故かゲストで出たのね。そのときに(椎名)純平がDezille Brothersで出ていて。それがモータウン系のイメージが凄くして好きで観ていたら、山下達郎さんの曲をそのバンドっぽくアレンジしていて、それが物凄く自分のものにして歌っていたから、“何処かで聴いたことがある気がするけど良い曲だなぁ”って全然気づかずに聴いていて(笑)。終わった後、“良かったよ〜!”って声をかけたら“どうも、純平です”って(笑)。以前すれ違ったりしたことはあったんだけど、そのときはよりブラックな印象しかなかったから。それで“俺が作った曲を歌ってみない?”って話したら“いいっすね”って言うから、その晩すぐに純平を想定した曲を作って送ったの。そしたらそれに歌を載せて返してきたんだよ! “ちょっとこのキーだと低いんですけどこんな感じで歌ってみました”って。“なんか、このリアクションは良いなぁ”と思って、“だったら自分の歌いやすいキーにしてどんな声になるか聴かせて”って返したら、今度は純平が自分のキーにしてキーボードを弾いて打ち込んだものを送ってきたの。それが良い感じだったので今度は俺がギターを入れて返したら、“なんか良い感じですね”って。だったら今度スタジオにちゃんと入って録ってみようよって話にして、ヒラポンに“なんかボーカルが見つかったかもしれない!”って(笑)。岡(雄三)も杏子のレコーディングに来てもらったりしてよく会っていたので。
岡さんってファンドフレット(扇形のフレットで1〜4弦それぞれの弦の太さに応じたスケールへと調整されたもの)のベースを弾いていてインパクトがありました。
そうそう、カナダのディングウォール・ベースのモニターを早くからやっていて。凄いピッチが正確で彼曰く弾きやすいんだって。慣れないでフレットを見ていると酔うけれど(笑)。
基本的にヒトサライ用に書き下ろした楽曲が多いんですか?
そう。それと俺のソロとかライブでは純平のソロの曲もやっているよね。最初にスタジオ入った時に、今回『嘘のようなマジな話』で録った「グッモニ」と「ウソマジ」のデモを作ったんだよね。それが物凄く良い仕上がりになったから、“よし、バンドにしよう!”って。それが一昨年の10月かな。
それにしても個人的にはサプライズ性を感じるというか、よく揃ったなっていう4人ですよね。
たまたま俺以外の三人はバンドが好きなんだけどあまりバンドをやってきてないなっていう感じで。これまでサポートやバックの仕事が多かった中で、ま、ちょっとニコニコ独裁政治が入っているかもしれないけど(笑)、俺が民主的な全員タメ口系のバンドをやろうと言ったとき、みんなやったことがないから面白そうって思ったんじゃないかな。それと俺が高校ぐらいのときからスティーリー・ダンとか好きだったから。これが生ピアノだったら声を掛けなかったかもしれないけど、純平がローズとかウーリッツァが好きだって言ってエレピを弾いていたから。なんか良いかもって思ったんだよね。
『ディレクターズ・カット』を聴いたときに、純平さんのエレピの刻みといまみちさんのシャープなギターがリズミカルに絡んでいるのが新感覚で。それまでPSY・Sとかで鍵盤楽器の絡みは聴いたことがあったものの、あまり鍵盤楽器とは演らないタイプのギタリストってイメージが強かったから驚きました。
PSY・Sはオケに乗っかっているギターだからね。なんだかんだ言ってさ、メンバーそれぞれ好きとか得意な分野はバラバラなんだけど、共通するのは歌ものが好きっていうのがあるから。アンサンブルに対する姿勢はみんなわかっているからね。今回『嘘のようなマジな話』では2、3曲書き下ろしているけれど、基本的にみんなライブでやっている曲。『ディレクターズ・カット』で何をレコーディングしようかってなったときに、ちょっとギターで引っ張っていくタイプの曲を優先させた。普通だったらバンド結成のきっかけになった曲を入れるんだろうけど、「グッモニ」や「ウソマジ」をいきなり出すとどんな気まぐれでバンドやっているのかなと誤解されそうな気がしたので。だから純平が“こんな感じで歌うのはやったことがない”ってやつを録音したんだよね(笑)。歌詞の雰囲気も『嘘のようなマジな話』は世界観がパーソナルなんだけど、『ディレクターズ・カット』はわりと俯瞰で見てる。逆に『嘘のようなマジな話』は純平のファンに“ガチにやっているんですね”って思ってもらえるものにしようと。どっちがメインってことはないんだけど、1stは今まで俺を聴いてくれた人が違和感なく入れる曲を中心にして、2ndは純平フィーチャーというか、“いまみちって誰!? でも良いじゃん”って言ってもらえるようにしようかなと。
説明されるとなるほど!と。1stだと純平さんはノーファルセットで結構張った声で歌っていたし意外だったんです。楽曲的にもいまみちさんの中で溜めていたようなものがどーんと出た印象だったので。この感じで行くのかと思ったら、新作はまったく異なるアプローチでしたからまた驚いて…。
この2枚のアルバムを合わせると今のヒトサライのステージなの。
みんなでせーので録るようなセッションレコーディングは4人とも慣れている感じなんですか?
全員で集まってこれをどうやろうか?っていうリハをやってから、ライブをやって。そのライブをやった感覚でレコーディングするっていうのはリズム隊の2人は新鮮だったかもね。二人はその日に行って“これを演るんですね”ってその場で演奏するっていうのを長年やっている強者だから。
いまみちさんがずーっと温めてきたバンド像を最も理想的なかたちでやっている印象があります。
やっているというか、やってもらっている印象はあるよね(笑)。純平は歌い方を変えたりとか、最初は俺に合わすというか、1stはちょっと戸惑いながらやっていたところがあると思う。ライブをやっていく中で純平もコンチクショウとそうじゃないだろうっていうのも言えるようになってきて、2ndは良い感じでちょこまかと言い合いもしたり(笑)。
1stでいまみちさんが歌詞を持っていったとき、純平さんが抵抗を示したことはなかったんですか? 本来ならメインを張れるソングライターが2人いるわけじゃないですか?
1stを録るので純平に“曲を持ってきて”って言ったとき、“まずは俺、いまみちさんの手のひらで踊らせて”って言っちゃったもんだから、実際に歌詞を見てエーッっていうのはあったみたいだよ(笑)。最初に聴かせたのが「グッモニ」「ウソマジ」だから彼は油断したわけ(笑)。1stだと特に「新宿フェザータッチ」は、“この歌詞は俺的に結構イケたと思うんだけど…”って見せたときにしばらく黙っちゃって(笑)。
(笑)。
そしたら純平は“俺は透明な歌手でありたいんです”って言うわけ。それで“純平の声は神の声だ、俯瞰で良いよ”って言って。「新宿フェザータッチ」だったら“このお父さんになる必要はないから、このお父さんの話を読んでいるナレーターの感じでもいい”ってね。それでも1stの6曲に関しては“もう、こんなフレーズ!”とか笑いながらこなしていたけど、今回の「キミとボンボン」は相当抵抗してた。しかも凄くキーが高くて、ほとんどその高いところで頑張らなければいけなくて。純平がソロのツアーをやっている合間にレコーディングしていたので、テンションが凄く高かったよ。“あと一回歌ったら喉が壊れるので、この一回で駄目だったらこの曲なしにしてください”“わかった!”みたいなやりとりで、“おぉ、歌えちゃったよ!”っていう。多分ね、バンドを組むときはどういう内容の歌を歌うかまでは考えてなかったと思う。サウンド面とかで“もっとギター弾いたら”“もっとキーボード弾いたら”というどうぞどうぞ合戦があった中で、2nd作る直前のライブくらいから“俺最近キーボード飽きてきていて、ヒトサライではキーボードがなくてもいいんじゃないですか?”とか言い出して、キーボードが入ってない曲も意外とあるよね。その分、あいつがキーボードを弾いている曲はそれが効いているアレンジが多いかな。1stだとリズムギターとリズム鍵盤みたいでやっている曲が多いじゃない? 1stの曲はどっちかがいなくても何とかなるかなっていうのもあるけれど、2ndになると随分とお互いの貢献度が増している気がする。ライブだと「ミスティック」はあまり鍵盤弾いてないんだけど、今回のレコーディングバージョンからエレピ取ったらまた全然違う感じになるじゃない? 一方で「スローライド」はライブだと結構鍵盤を弾いているんだけど今回鍵盤は一切なくしたりとかさ。1stはライブそのままの感じをせーので録った感じが多かったけど、2ndのレコーディングの前にみんなで話したのは、どっちみちライブでほとんどの曲をやっているから、レコーディングならではの感じで行っちゃおうかって。歌いながら弾くとストレスが高い鍵盤は1stでは入れてないわけ。でも2ndはライブではやれているから、どういうかたちにアレンジして固定しようかっていうのはまずは考えないでやってみようと。皆忙しくて全員が揃う日程がどんどんなくなっていく中、4日くらいレコーディング期間は全員揃ったのでわりと濃密にベーシックが録れたんだよね。
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