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いまみちともたか、ヒトサライとギターを語る!!

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「2ndはよりレコーディング作品ならではのアルバムを作ろうよと」
Interview & Photo by KAZUTAKA KITAMURA

 今夏不定期ながらスタートした音楽雑誌Playerの新コーナー「Open The TREASURE BOX」。毎回そのミュージシャンにとって特別なこの1本という楽器をクローズアップするとともに、その楽器に出会うまでのストーリー、こだわりの部分を撮りおろし写真とともにレポートしていきます。8月2日発売Player9月号のFILE#3ではいまみちともたか愛用のフェンダー・ストラトキャスターを紹介。お気に入りのK&Tピックアップがマウントされた2シングルコイル構成のこのストラトは、ヒトサライのメインギターとして大活躍中だ。ヒトサライはいまみちが2014年、椎名純平(vo,key)、平山ヒラポン牧伸(ds)、岡雄三(b)と結成したスーパーバンド。満を持してのパーマネントバンドという風に見ているいまみちファンも多いかもしれない。かつて“No Synthsizer”をクレジットしていたギタリストが、ボーカリスト兼鍵盤奏者とバンドを組んだことは予想外だったが、2015年に1stアルバム『ディレクターズ・カット』をリリース。いまみちの独創的かつユーモラスなソングライティングの魅力は健在、何よりソリッドなギターワークが満載なのも嬉しかった。特にギターフレーズなどは意外なほどにストレートなオマージュ風味でもニンマリさせてくれた気がする。そして今年7月に2ndアルバム『嘘のようなマジな話』もリリース。『ディレクターズ・カット』とは一転、ソウルフルでウェットなテイストもフィーチャーされた、最高の大人のロックアルバムに仕上がった。前作では禁じ手のように抑えた、椎名の甘いファルセットも存分に味わえる。Player Blogではヒトサライの結成エピソードや、傑作2ndアルバム『嘘のようなマジな話』についてのインタビューをお届けしたい。「ミスティック」のウェットな質感なり、「はらゆら」「ウソマジ」などのクロスオーバーなR&Bテイストなど、意外性がありつつもこの面子ならではの素晴らしい音がたっぷりだ!

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ヒトサライ  
嘘のようなマジな話
Hit Au Salai Records 7月27日
HITS-0002  2,778円(税抜)

「2枚のアルバムを合わせると今のヒトサライのステージ」

 ヒトサライというバンドはどういう経緯で始まったんですか?
 中島卓偉とULTRA SLACKERをやったときにヒラポン(平山牧伸)とタイム感とかが凄く合っていると思ったんだよ。2年くらい前にまたバンドを何とかしたいなって話をしていたとき、ロカビリーパンクジャズのライブに何故かゲストで出たのね。そのときに(椎名)純平がDezille Brothersで出ていて。それがモータウン系のイメージが凄くして好きで観ていたら、山下達郎さんの曲をそのバンドっぽくアレンジしていて、それが物凄く自分のものにして歌っていたから、“何処かで聴いたことがある気がするけど良い曲だなぁ”って全然気づかずに聴いていて(笑)。終わった後、“良かったよ〜!”って声をかけたら“どうも、純平です”って(笑)。以前すれ違ったりしたことはあったんだけど、そのときはよりブラックな印象しかなかったから。それで“俺が作った曲を歌ってみない?”って話したら“いいっすね”って言うから、その晩すぐに純平を想定した曲を作って送ったの。そしたらそれに歌を載せて返してきたんだよ! “ちょっとこのキーだと低いんですけどこんな感じで歌ってみました”って。“なんか、このリアクションは良いなぁ”と思って、“だったら自分の歌いやすいキーにしてどんな声になるか聴かせて”って返したら、今度は純平が自分のキーにしてキーボードを弾いて打ち込んだものを送ってきたの。それが良い感じだったので今度は俺がギターを入れて返したら、“なんか良い感じですね”って。だったら今度スタジオにちゃんと入って録ってみようよって話にして、ヒラポンに“なんかボーカルが見つかったかもしれない!”って(笑)。岡(雄三)も杏子のレコーディングに来てもらったりしてよく会っていたので。 
 岡さんってファンドフレット(扇形のフレットで1〜4弦それぞれの弦の太さに応じたスケールへと調整されたもの)のベースを弾いていてインパクトがありました。
 そうそう、カナダのディングウォール・ベースのモニターを早くからやっていて。凄いピッチが正確で彼曰く弾きやすいんだって。慣れないでフレットを見ていると酔うけれど(笑)。
 基本的にヒトサライ用に書き下ろした楽曲が多いんですか?
 そう。それと俺のソロとかライブでは純平のソロの曲もやっているよね。最初にスタジオ入った時に、今回『嘘のようなマジな話』で録った「グッモニ」と「ウソマジ」のデモを作ったんだよね。それが物凄く良い仕上がりになったから、“よし、バンドにしよう!”って。それが一昨年の10月かな。
 それにしても個人的にはサプライズ性を感じるというか、よく揃ったなっていう4人ですよね。
 たまたま俺以外の三人はバンドが好きなんだけどあまりバンドをやってきてないなっていう感じで。これまでサポートやバックの仕事が多かった中で、ま、ちょっとニコニコ独裁政治が入っているかもしれないけど(笑)、俺が民主的な全員タメ口系のバンドをやろうと言ったとき、みんなやったことがないから面白そうって思ったんじゃないかな。それと俺が高校ぐらいのときからスティーリー・ダンとか好きだったから。これが生ピアノだったら声を掛けなかったかもしれないけど、純平がローズとかウーリッツァが好きだって言ってエレピを弾いていたから。なんか良いかもって思ったんだよね。
 『ディレクターズ・カット』を聴いたときに、純平さんのエレピの刻みといまみちさんのシャープなギターがリズミカルに絡んでいるのが新感覚で。それまでPSY・Sとかで鍵盤楽器の絡みは聴いたことがあったものの、あまり鍵盤楽器とは演らないタイプのギタリストってイメージが強かったから驚きました。
 PSY・Sはオケに乗っかっているギターだからね。なんだかんだ言ってさ、メンバーそれぞれ好きとか得意な分野はバラバラなんだけど、共通するのは歌ものが好きっていうのがあるから。アンサンブルに対する姿勢はみんなわかっているからね。今回『嘘のようなマジな話』では2、3曲書き下ろしているけれど、基本的にみんなライブでやっている曲。『ディレクターズ・カット』で何をレコーディングしようかってなったときに、ちょっとギターで引っ張っていくタイプの曲を優先させた。普通だったらバンド結成のきっかけになった曲を入れるんだろうけど、「グッモニ」や「ウソマジ」をいきなり出すとどんな気まぐれでバンドやっているのかなと誤解されそうな気がしたので。だから純平が“こんな感じで歌うのはやったことがない”ってやつを録音したんだよね(笑)。歌詞の雰囲気も『嘘のようなマジな話』は世界観がパーソナルなんだけど、『ディレクターズ・カット』はわりと俯瞰で見てる。逆に『嘘のようなマジな話』は純平のファンに“ガチにやっているんですね”って思ってもらえるものにしようと。どっちがメインってことはないんだけど、1stは今まで俺を聴いてくれた人が違和感なく入れる曲を中心にして、2ndは純平フィーチャーというか、“いまみちって誰!? でも良いじゃん”って言ってもらえるようにしようかなと。
 説明されるとなるほど!と。1stだと純平さんはノーファルセットで結構張った声で歌っていたし意外だったんです。楽曲的にもいまみちさんの中で溜めていたようなものがどーんと出た印象だったので。この感じで行くのかと思ったら、新作はまったく異なるアプローチでしたからまた驚いて…。
 この2枚のアルバムを合わせると今のヒトサライのステージなの。
 みんなでせーので録るようなセッションレコーディングは4人とも慣れている感じなんですか?
 全員で集まってこれをどうやろうか?っていうリハをやってから、ライブをやって。そのライブをやった感覚でレコーディングするっていうのはリズム隊の2人は新鮮だったかもね。二人はその日に行って“これを演るんですね”ってその場で演奏するっていうのを長年やっている強者だから。
 いまみちさんがずーっと温めてきたバンド像を最も理想的なかたちでやっている印象があります。
 やっているというか、やってもらっている印象はあるよね(笑)。純平は歌い方を変えたりとか、最初は俺に合わすというか、1stはちょっと戸惑いながらやっていたところがあると思う。ライブをやっていく中で純平もコンチクショウとそうじゃないだろうっていうのも言えるようになってきて、2ndは良い感じでちょこまかと言い合いもしたり(笑)。
 1stでいまみちさんが歌詞を持っていったとき、純平さんが抵抗を示したことはなかったんですか? 本来ならメインを張れるソングライターが2人いるわけじゃないですか?
 1stを録るので純平に“曲を持ってきて”って言ったとき、“まずは俺、いまみちさんの手のひらで踊らせて”って言っちゃったもんだから、実際に歌詞を見てエーッっていうのはあったみたいだよ(笑)。最初に聴かせたのが「グッモニ」「ウソマジ」だから彼は油断したわけ(笑)。1stだと特に「新宿フェザータッチ」は、“この歌詞は俺的に結構イケたと思うんだけど…”って見せたときにしばらく黙っちゃって(笑)。
 (笑)。
 そしたら純平は“俺は透明な歌手でありたいんです”って言うわけ。それで“純平の声は神の声だ、俯瞰で良いよ”って言って。「新宿フェザータッチ」だったら“このお父さんになる必要はないから、このお父さんの話を読んでいるナレーターの感じでもいい”ってね。それでも1stの6曲に関しては“もう、こんなフレーズ!”とか笑いながらこなしていたけど、今回の「キミとボンボン」は相当抵抗してた。しかも凄くキーが高くて、ほとんどその高いところで頑張らなければいけなくて。純平がソロのツアーをやっている合間にレコーディングしていたので、テンションが凄く高かったよ。“あと一回歌ったら喉が壊れるので、この一回で駄目だったらこの曲なしにしてください”“わかった!”みたいなやりとりで、“おぉ、歌えちゃったよ!”っていう。多分ね、バンドを組むときはどういう内容の歌を歌うかまでは考えてなかったと思う。サウンド面とかで“もっとギター弾いたら”“もっとキーボード弾いたら”というどうぞどうぞ合戦があった中で、2nd作る直前のライブくらいから“俺最近キーボード飽きてきていて、ヒトサライではキーボードがなくてもいいんじゃないですか?”とか言い出して、キーボードが入ってない曲も意外とあるよね。その分、あいつがキーボードを弾いている曲はそれが効いているアレンジが多いかな。1stだとリズムギターとリズム鍵盤みたいでやっている曲が多いじゃない? 1stの曲はどっちかがいなくても何とかなるかなっていうのもあるけれど、2ndになると随分とお互いの貢献度が増している気がする。ライブだと「ミスティック」はあまり鍵盤弾いてないんだけど、今回のレコーディングバージョンからエレピ取ったらまた全然違う感じになるじゃない? 一方で「スローライド」はライブだと結構鍵盤を弾いているんだけど今回鍵盤は一切なくしたりとかさ。1stはライブそのままの感じをせーので録った感じが多かったけど、2ndのレコーディングの前にみんなで話したのは、どっちみちライブでほとんどの曲をやっているから、レコーディングならではの感じで行っちゃおうかって。歌いながら弾くとストレスが高い鍵盤は1stでは入れてないわけ。でも2ndはライブではやれているから、どういうかたちにアレンジして固定しようかっていうのはまずは考えないでやってみようと。皆忙しくて全員が揃う日程がどんどんなくなっていく中、4日くらいレコーディング期間は全員揃ったのでわりと濃密にベーシックが録れたんだよね。

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日本を代表するフィンガーピッキング・ギタリスト打田十紀夫の愛機に迫る

 7月号よりスタートした新コーナー『Open The TREASURE BOX』。毎回ミュージシャンにとって“特別なこの1本”という楽器をクローズアップし、その楽器に出会うまでのストーリー、拘りの部分を撮り下ろし写真と共にレポートする。

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 第2回目は、日本を代表するフィンガーピッキング・ギタリスト、打田十紀夫。8月2日発売のPlayer9月号では、現在メインで使用しているモーリスSC-123U打田十紀夫Signature Modelについて語ってもらっているが、Player Blogでは新作『どこかで春が〜アコースティック・ギターが奏でる日本の歌-Fingerstyle Guitar-』(以下:『どこかで春が〜』)に関するインタビューを掲載。本作は、日本人に馴染みの深い童謡、唱歌、民謡の名曲をアコースティック・ギターによる、インスト・アレンジでカバーし、「故郷」「赤とんぼ」「荒城の月」「黒田節」といった、日本人なら誰もが知っている伝統的な楽曲の世界観が、その流麗なフィンガーピッキングと卓越したアレンジ・センスによって、より色鮮やかに美しく広がる実に聴き応えのある充実作だ。更に、本作で大活躍したメインギター、SC-123U 打田十紀夫Signature Modelも紹介。本誌と併せてお楽しみ頂きたい!
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 新作『どこかで春が アコースティック・ギターが奏でる日本の歌-Fingerstyle Guitar-』(以下:どこかで春が〜)は、「故郷」や「春が来た」といった、日本の伝統的名曲が打田さんらしいアレンジで演奏されています。なぜ、今回こういった内容のアルバムを作ろうと?

 後輩のギタリスト、垂石雅俊君を介してキングレコードのディレクターを紹介してもらったのがきっかけでした。その時、頂いたのが「アレンジは打田さんにお任せしますので、より幅広い層が聴いてくれる日本の名曲をテーマにアルバムを作りませんか?」というオファーでした。僕はアメリカン・ミュージックをルーツとするギタリストですが、以前『SAKURA』でも「さくら」や「砂山」といった日本の伝統的なナンバーをプレイしましたし、これはおもしろいアイデアだなと。ブルースやカントリーといったスタイルは、どんな音楽性に通用しますからね。「さくら」はラグタイム・ギターのアプローチを応用して輪唱スタイル。尊敬するジャイアント馬場さんが好きだった「砂山」は、“カーターファミリー奏法”というベース側にメロディを組み込むテクニックを用いています。『SAKURA』の時の経験で、日本の曲でもしっかりしたベーシックがあれば、自分らしいアレンジできるという手応えを掴んだんです。

 なるほど!

 そういったアプローチを掘り下げて完成したのが『どこかで春が〜』です。日本人としてアメリカン・ミュージックを演奏してきた“僕だからできるアプローチ”ができたと思います。「春が来た」「海」「黒田節」はボトルネック奏法を用いていますが、そういう要素も実に自分らしい。「黒田節」は、個人的にとても気に入っているナンバーです。童謡、歌謡曲、唱歌といった曲の他に、やはり民謡も入れたかったので、最後の最後でこの曲を入れることに決めたんです。僕は呑兵衛なので(笑)、この曲の世界観にグッと来たから。原曲は尺八バージョンを聴いていたので、このメロディだったらボトルネックで弾いても合うなと…そこで、敢えてリゾネイター・ギターを使わずにアコースティック・ギターを使い、前奏と間奏はクロマチック奏法で琴のような雰囲気を出しました。

 楽曲についてコメントを下さい。

 「茶摘み」ではラグタイム的な“ズンチャッ、ズンチャッ〜”という要素を入れました。童謡はクラシック畑の人もよく演奏していますが、サウンドがシンプルなものでも、弾くと意外に難しいことが少なくないんです。つまり、難しい割にはサウンド的な効果が出ていない場合があると。でも、ブルース・ギターにはオープン・チューニングがあるので、それを活かしたらもっとシンプルに特徴的なサウンドを弾けるだろうと。対位法っぽい「からすの赤ちゃん」はオープンDマイナー、輪唱的アレンジの「かごめかごめ」はDADGADチューニングで演奏しました。今回は、10種類のオープン・チューニングを使っています。

 どの曲でも、流麗なテクニックと美しいトーンが堪能できますが、特に楽曲のアレンジは本当に秀逸ですね。

 ありがとうございます。

 曲の多くは3分位というコンパクトさですが、全てのパートが曲の一部としてしっかりと機能している…フィンガーピッキングの世界には、凄まじいテクニックを持つギタリストが何人もいますが、超絶なテクニックを駆使しただけの作品では、ここまで心に響かないですから。聴く人を考えた緻密なアレンジがあるからこそ、楽曲と演奏がここまで輝いているのだなと…。

 どのジャンルもそうですが、若い人達は速く弾きたがる傾向にありますよね。プロレスの“空中殺法”みたいな派手な技ばかり磨いている…でもね、プロレスも音楽も“関節技”みたいな、一見地味だけどその人の個性が出る技があって、僕はそこが大事だと思う。古い話ですが、ジャイアント馬場さんとブルーノ・サンマルチノの試合は正にそうで(笑)、ブルーノがサバ折りを決めて、馬場さんはそこで効いているのを観客にアピールしてから、起死回生のチョップを切り出す…プロレスにはそういうドラマがあるし、音楽にもそれは絶対に必要なんです。とは言え、僕も昔は早弾きに憧れていましたけどね (笑)。でも、今はゆっくり、しっかりと味わい深くメロディを弾きたいと思っています。

 そうなんですね。

 ええ、今回テーマにした日本の名曲達は、テーマ自体がとても短かったんです。1回、2回、いや3回テーマを弾いても短過ぎる…だから、曲中のテーマから発生した“バリエーション”を採り入れれば、しっかりと聴けるものになるなと。全てがそうではないけれど、たとえば「荒城の月」はブルースのフィーリングを入れ、同じコード進行だけど違う世界観を作り出しています。「春が来た」や「海」もそうですね。「故郷」は1番と2番ではメロディが1オクターブ違う。「かあさんの歌」は前半がアルペジオで、しっとりとした“いかにもな感じ”ですが(笑)、後半にカントリーっぽい躍動感のあるリズムになる。曲がシンプルな分、とても考えて展開を練り込んだので、より多くの人に楽しんでもらえる内容になっていると思います。

 そういう創意工夫があったんですね!

 はい、あと絶対に“教則本っぽい内容”にはしたくなくて、ギターを弾かない人でも楽しめるものしたかった。弾くためではなく、聴くための作品…そういうものを作りたかったんです。

 ええ、ギターを弾かない人も十分に楽しめる内容だと思います。しかし、注意深く聴くと、ハーモニクス、スライド、オープン・チューニングなど、ギターを熟知した打田さんでないと発想できないアイデアがアレンジにしっかり存在しており、それらが見事に曲としてひとつになっているなと。

 気付いて頂きとても光栄です。きっとブルースという音楽の影響が大きいのでしょう。僕が好きな1920年〜1930年代のブルース・ギタリスト達は、教則本や資料映像も無い時代にその地域に根付いた奏法をマスターしながら、独自なプレイに発展させていきました。東海岸のギタリストはラグタイム的なリズムを採り入れ、テキサスはコンスタントなビート、ミシシッピー・デルタ地帯はストラミングが多い。といったように、その土地、土地の奏法がある。その中で、ブラインド・ブレイク、ライトニン・ホプキンス、レヴァランド・ゲイリー・デイヴィス、チャーリー・パットンなど、突出したギタリスト達のスタイルがしっかり残っていった…そういうギタリスト達が大好きで沢山コピーしてきたので、必然的にそういう“引き出し”を色々と習得できたんです。だから、過去に影響を受けた要素を曲に照らし合わせていくだけで、そこまで苦労や違和感はなくアレンジできましたね。

 そして、そういった奏法を人に教えることで、自分の中で深く理解できる部分もあると思いますが、どのプレイも実に打田さんらしいスタイルが宿っていますね。

 “打田さんらしい”というコメントとても嬉しいです。ギタリスト、いや演奏家は1音で“あの人だ!”と思えるアイデンティティが絶対に必要不可欠。上手い下手ではなく、まぁプロは当然上手くなければダメですが(笑)、今のプロは超絶に上手いですから。でも、それだけではダメなんです。

 ええ、今はYouTubeなどで簡単に過去の偉人達のプレイを観て学べるので、皆デビューした時点で凄く上手いですよね。でも、映像という“究極の答え”を参考にしているので、どのジャンルでも皆キャラクターが似ているというか…一聴でわかる“個性的なギタリスト”が減った印象があるんですよ。

 そうだと思います。凄腕だけど、キャラが似ているギタリスト達を集めてバトルロイヤルを開催して、勝ち残った人に権威をあげるとか、そうしないといけない時代が来たのかもしれない…でも、僕はその前の時代に育ち、戦前のギタリスト達をコピーしてきたので、全く違うギタリストなんです。僕らの時代って、コピーするにも凄く時間が掛かった。でも、時間を掛けた分だけ本当に体に染み込んでいるし、テクニック云々の前にそういった音楽が本当に好きでしたから…当時、フィンガーピッキングのブルース・ギターで生計を立てようなんて、日本では僕以外誰も考えなかったと思うから(笑)。

 そういったギタリストとしての打田さんの“生き様”が、今回のアルバムにはしっかりと出ていますよね。

 最初は“こんなに大胆なアレンジだと日本民謡協会に怒られちゃうかな?”とか思いましたよ(笑)。でも、こういうアルバムって今までなかったという自負があります。ジャズ・ミュージシャンも日本の曲をカバーしていますが、彼らはインプロが中心なので曲が凄くリアレンジされている。それもありだけど、僕は曲の雰囲気はしっかりと残すべきだと思っているので。

 ええ、演奏を聴くのではなく曲を聴くならば、やはりそれがベストだと思います。

 今年3月のツアーでアルバムの曲を数曲演奏したのですが、来て下さった年配のお客さんが演奏に合わせて一緒に歌ってくれたんです。そういう光景を目にして本当に嬉しかった! 今回収録されている曲は、日本人のDNAに響く“スタンダード”ですから。その核となる部分はちゃんと残っていて、それが伝わったのだなと。でも、こういった日本のスタンダードって、今もちゃんと学校で子供達に教えているんでしょうかね? 以前、若手ギタリストとツアーをした時、「朧月夜」を弾いたら曲自体を知らなかったことがあって…今の音楽の教科書ではポップスなども多く載っているみたいですし、日本のスタンダードが変わってきている時期なのかも知れませんね。

 そういう今だからこそ、こういったアルバムを出せたことに凄く意義があるなと。選曲やアレンジは特に苦労することもなく?

 入れるか悩んでボツにした曲はあって、「冬景色」や「ちいさい秋見つけた」がそうでしたが、アレンジに関して苦労はありませんでした。強いて言えば、「赤とんぼ」でのハーモニクス。これは12、7、5フレットだけでなく、4と9フレットという鳴らしにくいポジションも使いました。ハーモニクスは各開放弦に対する純正律の音ですから、それだけでもメロディを弾いたワンコーラス目は厳密には平均律のメロディと少しズレるんです。人工ハーモニクスを用いる手もありましたが、今回はシビアにピッチを気にするより、曲の雰囲気にしっかりマッチしていればOKだと思う部分があったので、そこは上手くいったたので問題ありませんでした。

 使用されたギターは?

 9本使いました。一番使ったのはモーリスのSC-123U、その他にシオザキF-CM、ヨコヤマSFJ-WH、クレセントムーンのオール・ナトーとOOO、リパブリックのトライコーン、ナショナル・スタイルN、ギブソンB25-12、フランクリン・ジャンボ。どれも想い入れがあり好きなギターですが、18曲中8曲はモーリスSC-123Uでした。単純に弾き易いですから。これは本当に重要。モーリスSシリーズは、00年代初頭の開発時から関わっていたんです。その時、「サステインが長過ぎず、低音弦の音量が出過ぎないギターを作って欲しい」と頼んでいたんですね。

 というのは?

 サステインが長過ぎると、ピアノのサステイン・ペダルを押したままのように、音がグチャグチャになってしまう。なぜ、バンジョー奏者があれだけ音数をクリアに演奏できるかと言うと、それはサステインが少ないから。またベースが出過ぎるのも、やはり全体としてはバランスが悪くなってしまう。それを実現するのは、メーカーとしては難しい部分もあったと思います。サステインが伸び、低音弦の音が大きいと誰もが“オッ!”と思うわけです。そういった第一印象が強い方が、街にある楽器店にフラっと立ち寄って試奏した時にもインパクトが大きいですから。僕が理想とする音を実現するには、使用木材やブレイシングが重要になります。また、ベースが出過ぎないようにボディは極力薄くして、早いレスポンスが得られるようになっています。

 なるほど!

 アコースティック・ギターの歴史を辿ると、より低音域の音量を得るためにボディを大きくしていったという経過があります。でも、それはギター“本来の音”から随分と変化した音だと思うんですね。

 ブルース・ギタリストでパーラー・タイプを使うプレイヤーは少なくないですが、彼らはそういう自然で素朴なサウンドを求めているんでしょうね。

 そうだと思います。あと、重要なファクターはネック形状。これは、一番握り易いと思っている僕のシオザキ・ギターをプロファイリングしてもらいました。それをしっかり再現してくれたんです。その弾き易さと、鳴りが好みなSC-123Uは“ベスト”と言えるギターです。品番も、僕が尊敬するジャイアント馬場さんの誕生日“1月23日”を意味していますし、普及版の方はSC-16Uで“16文キックですから(笑)。これは公にすると猪木ファンが買わなくなるので、大きな声では言えないですけどね!(笑)

 (笑)。今回登場した『アコースティック・ギターが奏でる日本の歌「打田十紀夫/どこかで春が」完全コピー楽譜集』で、その緻密なアレンジをより詳細に理解できますね。

 “CDで弾いた通り”を正確に採譜してあります。私が使うタブ譜の記譜法は、師匠のステファン・グロスマンから学んだもので、数字に付けたラインの向きからピッキングする右手の情報も分かるようになっています。ですので、CDの音源を聴きながらタブ譜を慎重に確認して練習すれば、正しいサウンドを学ぶことができるはずです。

 なるほど、『どこかで春が〜』は、打田さんのギタリストとしての魅力が最大限に発揮された味わい深い作品ですが、今後こういった日本の曲をカバーするアルバムのVol.2をリリースする予定はあるのでしょうか?
 
 候補になった曲はまだ色々とあったので、いつかできたらおもしろいですね。でも、今は『どこかで春が〜』の曲をもっとツアーやライブで演奏して、自分の中に染み込ませたい想いがあります。日本の名曲を日本各地、いや世界中の皆さんとライブで一緒に楽しめたら嬉しいです!


◎ギター紹介
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MORRIS
SC-123U 打田十紀夫Signature Model


 『どこかで春が〜』では、モーリスSC-123U、シオザキF-CM、ヨコヤマSFJ-WH、クレセントムーンのオール・ナトーとOOO、リパブリックのトライコーン、ナショナル・スタイルN、ギブソンB-25-12、フランクリン・ジャンボなど、曲の世界観に合わせて様々なギターが使われている。打田がメインギターとして、ライブからレコーディングで愛用しているのが、モーリスSC-123U打田十紀夫シグネチャー・モデル。マスター・ルシアーの森中巧によって製作され、打田がイメージする“サステインが長過ぎず、低音弦の音量が出過ぎないギター”を実現するため、シン・グランド・オーディトリウムのボディ形状を採用。ブレイシングは表甲がラティス、裏甲がXというコンビネーションになっている。スケールは、レギュラーよりも3ミリほど長い652ミリに設定され、ボディ・トップ、サイド&バックはホンジュラス・マホガニー単板、フィンガーボードはハカランダ。素直な音色で、弾き手のタッチを忠実に再現する。ペグはゴトーのSGL510Z-BL5 CKで、安定したスムーズなチューニングを実現している。ホンジュラス・マホガニーのネックはナット幅が44ミリに設定され、グリップ形状は打田が最も弾き易いと感じる、シオザキ・ギターのネックをプロファイリングしている。親指で押弦する、シェイクハンド・スタイルを使う打田がプレイし易いように、6弦寄りに溝きりをオフセットにした、特製のナットを使用しているのもポイント。ピックアップはウエーバーのWPS-1。ライブでは、これをズームのアコギ用マルチ・エフェクター、A3に繋いでいる。

Interview & Photo by TAKAHIRO HOSOE

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打田十紀夫
どこかで春が〜アコースティック・ギターが奏でる日本の歌-Fingerstyle Guitar-
キングレコード CD  KICS-3365 発売中2,500円(税抜)

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アコースティック・ギターが奏でる日本の歌「打田十紀夫/どこかで春が」完全コピー楽譜集
TAB・BK-2002 2,000円(税抜)

こだわりの1本に迫る新企画、第1回はオワリカラのタカハシヒョウリ!

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 Player7月号では新コーナー「Open The TREASURE BOX」がスタート! 毎回そのミュージシャンにとって特別なこの1本という楽器をクローズアップするとともに、その楽器に出会うまでのストーリー、こだわりの部分を撮りおろし写真とともにレポートする。記念すべき初回を飾るのはグルーヴィかつ独創的なプレイで魅了するレフティギタリスト、オワリカラのタカハシヒョウリ。本誌では様々なカスタマイズを施したストラトキャスター“タクト・スペシャル”に関して存分に語ってもらったが、Player Blogでは2年振りとなる新作にしてメジャー・デビュー作『ついに秘密はあばかれた』に関するインタビューを掲載。更に昨年よりサブギターとして使用しているアイバニーズのロードコア・シリーズのカスタムモデルも紹介。本誌と併せてお楽しみ頂きたい。
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