ムーンライダーズの鈴木博文が主宰するメトロトロン・レコードから数々の名盤ソロをリリース、ザバダックやあがた森魚、青山陽一、綿内克幸などのサポートも手掛けるなど、独自の存在感を放ってきたマルチ・プレイヤー/シンガーソングライター、青木孝明。篠原太郎とのタッグで数々の名盤ソロ・アルバムを輩出してきた彼だが、最新にして最高傑作と名高い2004年リリースの『ONE DAY』(TAKA rec.)以後は、ちょっと動向が落ち着いていて寂しい。…と思っていたら、実は昨年11月に自主制作で『SOUNDTRACK FOR FUTURE PAST』という初のインスト・アルバムをリリースしていた(!)。
これまでのソロ・アルバムでもインスト曲は収められていたし、ライヴでインスト曲が披露されたこともあった。しかし、インスト・アルバムという作品としては『SOUNDTRACK FOR FUTURE PAST』が初めてである。しかもユニークなのは架空のサウンド・トラックであり、同時に彼が青春期に憧れていた大野雄二、若山弦蔵、ヴィニ・ライリー、バート・バカラックらへのオマージュをテーマに作曲されているという点。さらには英会話教材用に制作されたインスト作品もボーナス・ディスクとして付属している。彼のウェブサイトでは試聴も可能になっているので、興味を持ったひとはMelody CIrcleにアクセスしていただきたい。
青木孝明といえばギター、ベース、鍵盤、打楽器etc.なんでも操っちゃう多才なひとなのだが、『SOUNDTRACK FOR FUTURE PAST』に関して言うと、普段の歌ものアルバムではまずありえない音楽性、旋律、遊び心がとにかく聴きどころだろう。そして同時に“楽器弾きの顔”もストレートに出ているのも面白い。実験的ではあるけれど、ソングライターとしての未知なる可能性も詰まった好盤に仕上がっている。いったいどういった経緯で制作されたアルバムなのか、青木孝明に直撃してみた。
『SOUNDTRACK FOR FUTURE PAST』は初のインスト作品集ですが、そもそもインストだと作曲の仕方って変わるものなんですか?
特に意識して作り方を変えたってことはなかったです。ただ、歌詞がつかなくてこれまでだったらあきらめていたような曲が、“あきらめなくてすんだ”は言えるかもしれない。いい意味で『歌う』という箍(たが)が外れたことで、こういう作品が生まれたのかもしれないですね。。
こうしたインスト作品は実際にどのように作曲するんですか?
普通の歌ものと変わらないんですよ。思いついたら携帯電話に歌って録音して、後でそれを聴いてみて曲を思い出せたら形にしていくというやりかたです。そのときのイメージがギター・サウンドだったらギターで作るし、キーボード・サウンドだったらピアノで作ります。単純ですね。
ドラムは打ち込みではなくて、御自身で叩かれているものが多いですよね?
いや、実は今回は全部打ち込みなんです。最近の打ち込みソフトは小技も凄いんだよ。自分でも叩きたい気持ちは疼いているんだけどね(笑)。でも打ち込みと気づかなかったというのは結構嬉しいかも。
へぇ〜。『SOUNDTRACK FOR FUTURE PAST』は大野雄二、若山弦蔵、ヴィニ・ライリー、バート・バカラックら、それぞれ異なる作風の作曲家に対するオマージュがテーマですが…。
あ、ごめん。説明が足りなかったかもしれないけれど、若山弦蔵は作曲家ではなく、僕が子供の頃によく声を聞いていた DJなんですよ(笑)。こういう風に連ねて書くと音楽家と勘違いしてしまうかしれないね。
いやいや、不勉強ですみません(笑)。アルバムを通して聴いた印象なんですけど、“スケールが大きいけれど親しみやすいメロディ”っていう部分では共通項って気がしたんです。青木さんも作曲していて、類似性に気づいた部分はありませんか?
ヴィニ・ライリーはちょっと異質な存在だけれど、「気になる嫁さん」時代の大野雄二さんは多分バート・バカラックを強烈に意識していたでしょう。以前、「レコードコレクターズ誌」のインタビューが語っていたのを読んだ記憶があるんですよ。だから大野雄二さんへのオマージュとバカラックへのオマージュは、本人にしか違いはわからないかもね(笑)。
以前、ライヴで大野雄二さんの「気になる嫁さん」はカヴァーされていましたよね? 「気になる嫁さん」をカヴァーしたことが、こうしたインスト・アルバムを作るそもそもの契機になったんですか?
それはありますね。子供の頃憧れていた音楽を再認識したんです。幼い頃は父親にセルメンやクラシックを聴かされていたし、小学校では今思えばソフトロック調の尾崎紀世彦や堺 正章を口ずさんだし、中学生の頃になるとビートルズから本格的に音楽が好きになっていったんです。けれど、まだ作曲はできなかったんだよね。作曲に関しては、高校生の頃にパンク、ニューウェイヴを聴くようになって、自分にもできるような気がして見よう見まねで始めたんです。それから次に流行るもの、次に気に入ったものを取り入れるようになっていったという。でも自分でアルバムを作るようになってからは、それを逆に遡るようになったんです。最初のほうのソロ・アルバムだと流行りもののネオアコから始まったところもあったし、その後フォークロックやビートルズ、ソフトロック的なもの、ブラジルものというように、だんだん小さい頃親しんでいたものに戻っていくようになって。そしてたどり着いたところが「気になる嫁さん」だったのかもしれない(笑)。![]()
青木孝明が手にしているのはなんとリュート! ここ最近古道具屋で見つけて入手したとのだそう。本人曰く「なかなかチューニングが難しいんだよね(笑)」。
シンガーソングライターとしてのレコーディングと異なり、インスト作品だと大胆な実験ができたり、ある種気楽に制作できたところはありませんか?
実はそれは凄く大きかった! そう言ってくれるとかなり勇気づけられるけれど、作品に自信はあっても、今まで聴いてくれてきた人が楽しめるかどうかは不安もあったからね。“歌わなくても大丈夫だろうか?”みたいな。でももう少し軽い気持ちで出してみようと思って、今回はあえて自主制作で発表したんですよ。“嫌われたっていいや”くらいの気持ちで(笑)。
いやいや(笑)。「未来世界のアフターファイヴ」のアプローチは特に『Phase Four』『one day』からの流れに通じるものを感じました。
特に意識していないけど。この作品集の中では、最近2作の歌もののアルバムの雰囲気に一番近い作品かもしれないね。
「存在しない映画の為のサウンドトラック(ホラー編)」はもろにマイク・オールドフィールドだと思ったんですが(笑)。
まさにこれはマイク・オールドフィールド風の依頼で作った作品で、実は採用されなかったものなんですよ(笑)。でも仕上がりが凄く気に入っていて、お蔵にしておくには勿体なくて本編のおまけで入れたんです。実はマイク・オールドフィールドはそんなに好きじゃなかったり(笑)。
(笑)。ちなみにBONUS DISCの『EXPERIENCE AMERICA! SOUNDTRACK』のほうは、楽器弾きとしての青木さんの魅力が前面に出ていて非常に興味深かったんですよ。
ありがとう。こちらはそんなにメロディー重視ではなかったので演奏中心の作品と言えるかも知れませんね。思えばこういう作品も出したことはなかったので新鮮な体験だったんですよ。この仕事がきっかけでインスト作りにもハマり始めたんですね。また続編を作りたい気持ちもあるんです。
アメリカ観光名所のイメージフィルムに合わせて作曲されたそうですけど、知名がまんま曲名になっていたりして。場所がまんま曲のイメージ源なんですか?
うん、これはその通りですね。
中でも「LOS ANGELES」の音作りが普段の青木さんのアルバムではありえない感じで面白くて(笑)。
たしかに(笑)。
L.chのギター・カッティングの音作りはどのように行なったんですか?
これはアートの真空管プリアンプを通したライン録音ですね。ギター・アンプに関してもVSTソフトを使っています。
個人的に最も衝撃的だったのはサーフ・インスト風の「LAS VEGAS」です(笑)。
サーフ・インストは好きですよ。ディック・デイルとかヴェンチャーズとかね。マニアではないけど。この曲で弾いたのはギブソン・ファイヤーバードIですね。見た目のイメージとは違うだろうけど、結構テケテケ系も行けるギターなんだよね。
そのほかレコーディングで使用した楽器やレコーディング機材についても教えて下さい
録りに関してはハード・ディスク・レコーディングです。マイクに関してはロードのNT-1とシュアのSM57。ギターはエレキがギブソン・ファイヤーバードIとエピフォン・カジノ。少しレスポールも使ったかもしれない。アコギは6弦の鉄弦がマーティン D18、ナイロン弦ギターはアリア、12弦はギブソン B25-12ですね。ベースはフレットレスがフェンダーUSAのプレシジョン・ベース、フレッテッドはフェンダージャパンのジャズベース。キーボード、シンセ系は全てVSTインストルメンツですね。
『one day』に続く歌ものアルバムもそろそろ聴きたいんですけれど(笑)。
う〜ん、まだ具体的な予定はないんです。今はこうして手に入れた自由を謳歌している最中なんですよね(笑)。![]()
青木孝明『SOUNDTRACK FOR FUTURE PAST』
自主制作 SPACE3/4