'80年に名盤『MOTION PICTURE』を輩出したバンド、シネマが再結成したのはまさかの出来事だった。ムーンライダーズ35周年記念イヴェントの一環として、ポータブルロックとともに久々のライヴを行なったときは大変驚いたんだけれど、まったくブランクを感じさせないバンド・アンサンブルはさらに驚きを助長させたのである。唯一のアルバムだった『MOTION PICTURE』が、初CD化のシングル曲やレア・トラック集が大幅追加されてソニーGTより2枚組仕様で再発されたりと、シネマ待望論は確実に大きくなっていたのは事実であり、堂島孝平とのジョイント・ライヴを経て、なんとまさかの2ndアルバム制作にまで発展。「みんなが現役で活動していたからこそできたんだよね」とは松尾清憲談だが、現役だったのはメンバーだけではない。1st同様に鈴木慶一プロデュース、スタッフも当時の面々で再集結したというなんとも幸せなサプライズが待ち受けていた。かくして12月5日にソニーGTより『CINEMA RETURNS』が見事お目見えしたのである!
『CINEMA RETURNS』
『CINEMA RETURNS』は、松尾清憲曰く「昔のCINEMAの雰囲気を残しながら、それぞれ今のソロのイメージが反映された仕上がり」であり、なおかつ複雑怪奇なポップ・スペクタクルが展開される様はただただ圧巻な一枚だった。松尾清憲がハイトーンのファルセットを多用した旋律を歌いあげる辺りはまさしくシネマならではだし、鈴木左衛子のアグレッシヴなドラミングや甘い歌声が健在なのも聴きどころ。“こういうポップ・ミュージックを作ってくれるひとっていないんだよなぁ〜!”と胸が熱くなってしまったひとも多いことだろう。
『CINEMA RETURNS』を引っさげてのレコ発ライヴが行なわれたのは12月28日の渋谷duo music exchange。会場には広い年齢層の音楽ファンが詰め掛けており、また「あ、あのひとは!」っていうミュージシャンの姿も多かった。ライヴのほうは松尾清憲(vo,g)、鈴木左衛子(vo,ds,key)、一色 進(vo,b)、小滝みつる(key)、錦織幸也(g)のシネマのメンバーに加えて、小泉信彦(key,g)がサポートで参加した6人編成。“あの壮大なサウンドをどうやって再現するの!?”とは誰もが思っていたことだが、同期も使うなどしてほとんどレコード通りに再現していたのだから凄い。
「オールキャスト」「GALAXY LOVERS」「彼女のサイコロジー」と『CINEMA RETURNS』通りの曲順でライヴはスタート。基本ラインは『CINEMA RETURNS』の披露劇なのだけれど、随所で「雨のチャイナタウン」「HOTEL」「電話 電話 電話」「グッバイ・ハートブレイク」「君のプリズナー」など80年代の楽曲が織りまぜられたセット・リストで、なんとアンコール含めて全20曲がプレイされた。曲間のMCコーナーでは一色-松尾コンビが喋る! 喋る! 超絶なオヤジギャグもたっぷりだったが、演奏となるとクールな展開劇が怒濤のごとく繰り広げられる。重厚なギター・サウンドとシンセ・サウンドが絡み合い、融合してドラマティックな世界観を築きあげるバンド・サウンドは、前時代的なものだって言うひともいるのだろうが、僕からすると志半ばで放っておかれたまだまだ可能性が残っているアプローチっていう気がしている。『MOTION PICTURE』も充分濃厚な作品だったはずなのに、『CINEMA RETURNS』はさらにスケールアップして聴こえるのだから驚くしかない。そしてそれがほとんど印象が変わらずにライヴでも再現されていくのだから!
鈴木左衛子・作詞・作曲の「Rock'n Roll Star In Heaven」では、彼女はドラムセットから離れてピアノをプレイ。鈴木左衛子、一色 進、松尾清憲3人のヴォーカルがそれぞれ味わえるのがこの曲の魅力でもある。またこの曲ではそれまでフェンダー・ジャズベースをプレイしていた一色 進も、ダンエレクトロのベースを弾いていた。チューニングの問題なのか? ダンエレのトレブリーなトーンが欲しかったのか? ちょっと気になるポイントだった。重複するが、『CINEMA RETURNS』は久々に鈴木左衛子の歌声が堪能できる。この点も永年の“鈴木さえ子ファン”にとってまさに待望の瞬間だった。続いて「虹色のアライヴァル」に移り変わる際に、鈴木左衛子は“ロック印象派”ピアノ・ソロも披露。中盤の大きな観どころになっていたと思う。
シネマのプロデューサーである、ムーンライダーズ 鈴木慶一のゲスト出演も今回の観どころだった。「今晩はトレヴァー・ホーンです」という一言とともに、鈴木慶一は赤いヘフナーのセミホロウ・モデルのギターを手に登場(このギター、近々「DEAR MY PARTNERSのページにて御紹介するのでお楽しみに)。ムーンライダーズの最新アルバム『MOON OVER the ROSEBUD』より「Rosebud Heights」をシネマとともにプレイしたが、なんと意外にもこの曲はライダーズではまだライヴでプレイしていないのだという。さらなるサプライズは初期ライダーズの代表曲「ジェラシー」…しかもアップテンポのシングル・ヴァージョン! これはシネマ・メンバーからのリクエストだったようだ。さらに続く「Swan Song」ではピアノに回った鈴木左衛子に代わり、なんと鈴木慶一はドラムをプレイ! 個人的にもライダーズのライヴ以外で鈴木慶一がドラムを叩く姿を観たのは初めて。結構レアだったと思う。
「こういう音楽をやっているバンドは他にいないし、解散はしないでまたいつか集まりたい」ということを、終盤のMCで松尾清憲が述べていたのだけれど、その点はまったく僕も同感なのだ。各メンバーが各々でやっている音楽も魅力的なのは言うまでもないが、シネマとして集まると何故かこういうスケールの大きい音楽ができるというのはやっぱり面白いし、この5人ならではって気がする。「久々にドラム叩いてマメが潰れちゃった」と笑っていた鈴木左衛子だが、歯切れの良いドラミングが圧巻だったし、珍しくスタンド・マイクで松尾清憲が歌い上げた「Face in Masquarade」は、ヴォーカリストとしての新境地だった。単なる再結成ではなくて、さらなるバンドとしての進化を魅せてくれたところが感動的だったし、まだまだ可能性を感じてしまう部分なのである。シネマのサイトではまだメンバー/スタッフによるブログも更新され続けており、“ちょっと先になっても構わないからまた新たな曲が聴けたらなぁ〜”などと淡い期待を抱きつつ、僕は今日も『MOTION PICTURE』『CINEMA RETURNS』を愛聴し続けるのだ。
Thanks to 松尾チャンネル、ソニーGT

