日本人だからこそグローバルなバランス感がある
インタビュー初登場ですので、ギターを始めたきっかけと、影響を受けたミュージシャンを教えてください。ギターを始めたのは高校生の頃だったとか?
ギターを始めたきっかけは中学校の頃。バンド・ブームがあり、特にヴィジュアル系の全盛期でGLAY、LUNA SEA、L'Arc〜en〜Ciel、SHAZNA、その他のJポップなど、ジャンル関係なく沢山聴いていました。当時、洋楽はあまり聴いていなかったです。そんな中、エレクトリック・ギターを親父に欲しいと言うと、『不良になるきいかん!』と言われ、アコースティック・ギターを中2の時に買ってもらったんです。その時からコードは弾けていましたね。クラッシック・ギターは、たまたま行った高校にクラシック・ギター部があり、そこで運命の出会いがありました。僕の恩師、松居孝行先生です。ここから、人生が大きく変わりました。影響を受けたミュージシャンは松居孝行さん、佐藤紀雄さん、山下和仁さんですね。
新作『StillMotion』の「ZIPANGU」のように山下さんは、クラシック音楽をバック・グラウンドとしたアレンジや曲や演奏の構成美に独自の個性を感じます。普段曲作りやアレンジはどのようなイメージを描き、形にしていくのでしょうか?
大学に入り、どっぷりクラシック音楽にハマりました。クラッシックは“一生辿り着けない迷路”を少しずつ解いていっている感覚で、飽きがこないんです。答えのない人生と同じ感覚。「ZIPANGU」は、そんなクラシックの感覚をほんの一部分抜き取った曲です。曲のイメージは“海外から見る日本の風景と精神”です。それを、鼻歌で口ずさみメロディを書きました。2011年から毎年海外での公演をしており、世界の人々とのコミュニケーションの中で、日本のイメージを聞いて浮かんで来た色を和音にしました。日本人だからこそ、グローバルなバランス感のある柔軟なイメージだと思います。それがいちむじんかと。
新たなメンバーを迎えた新作『StillMotion』は、アンサンブルがより色彩豊かになり、実に聴きごたえがありました。その中で、16年11月に宇高さんの脱退が発表され、多くのファンが驚いたと思うのですが、その経緯をお訊かせ下さい。
昨年、宇高から「いちむじんを卒業したい」という相談を受けていました。自分は、ずっと2人でやってきたので、まさか終わりを迎えるとは思ってもみず…ただ、宇高から「もっと音楽を通して幅広い活動をしていきたい」と言われ、なるほどなと思いました。クラシック、ギターデュオ、ジャンル、色んなことの固定概念に縛られていたんだなと。ファンの皆様、応援して下さっている沢山の人達には、大変なご迷惑を御かけ致しました。申し訳ない気持ちで一杯です。お互い違う形ですが、前を向いて頑張りますので、これからも応援よろしく御願い致します。
前作『恋むじん』では、ストリングスやサックスなどが加わっていました。それを踏まえると、本作でバンド形態になったのも非常に合点がいくのですが、なぜバンド形式にしようと?
10年リリースの『TOMA』で、初めて他の楽器をアンサンブルに加えてCDを作りました。音楽監督は、今回と同じ住友紀人さんです。住友さんとは11年のお付き合いがありまして、その時から、「作曲をしたほうが良いよ。もっと自分達の色が出るから」とアドバイスをもらったんです。『TOMA』から、自分達で作曲を初め、この6年でイメージが膨らみ、今頭で鳴っている音はギターだけではなくなっています。3年前から、グラミー賞を取るためには“頭にある音を表現しないといけない”という思いになり、今年10周年を迎えるタイミングにバンドになりました。今年は色々重なっていますね(笑)。
今回新加入した鳥越啓介(b)さん、永田ジョージさん(pi)、白須今さん(vi)、渡辺庸介さん(per)はどういった経緯で加入したのでしょうか? 山下さんは、この5人のメンバーの演奏面や音楽性、人間性にどのような魅力を感じるのでしょうか? また彼らは新作『StillMotion』にどのような変化をもたらしましたか?
僕が接触した順番は白須、永田、鳥越、渡辺になります。皆共通に言った口説き文句は、「グラミー賞を取りましょう。」です。最初に浮かんだ楽器がヴァイオリン。メロディを華やかにし、そして癒しを加える…という事で“アドリブができ、うるさ過ぎないヴァイオリン、作曲ができ、イケメン”というキーワードで検索した結果、白須が全て当てはまり誘いました。実は、共通の知り合いが伊勢神宮で宮司さんをしており、11年前に一度会っているんです。僕は覚えていなかったのですが(笑)。白須の魅力は音程がとにかく良く、気持ち良い音を奏でること。そして、どのヴァイオリニストにもない、ファンタジーな曲を書けることです。今後、いちむじんの可能性をかなり広げてくれるんじゃないかと思います。永田は、白須からの紹介で音源を聴き、とても良い心地の良いピアノで癒され、ギターとのデュオでもバランスが良いと思い、会う約束をしました。会って話をした時“この人は人が良過ぎるから、こんな綺麗な音、他の楽器の邪魔をしないアンサンブル力があるんだ”と思いました。帰国子女という事もあり、英語は完璧! 超エリートサラリーマンを経てのピアニストという、異質なプロフィールにも惹かれています。鳥越は、もうミュージシャンの中で知らない人はいない程、有名なベーシスト。最近、周りからは「よく鳥越さんを捕まえられたね」と言われます(笑)。彼のベースとコントラバスを聴くと、ハイポジションを迷いなく弾き音程が完璧。ある時は、ギターのようにラスゲアードをして、スケールを弾きます。オールジャンル弾ける引き出し、アイデア。僕は“日本一のベーシスト”だと思っています。今は、毎回の本番が楽しみでしょうがないです。渡辺は、鳥越さんと一緒にドラムも叩けるパーカッションを探していてライブに2人で行き、その日にすぐに口説きました(笑)。スウェーデン仕込みのタンバリンの使い方、民族音楽をやっているリズムパターンの多さと、合いの手いれるセンス、抜群です! 京都出身という事もあり、トークも軽快でイジりやすいです(笑)。『StillMotion』を作るにあたって、新メンバーが入った事で、僕の頭の中にあった音以上の色合いが出たんです。それが個性的だけど、重なりあっている。今回は永田と渡辺のオリジナル曲はないですが、みんな共通で持つ日本音楽、ワールド・ミュージックという“芯”があるからこそ、時間のない中でも素晴らしいアルバムが出来たのだなと。
12月11日には、この6人体制で最後のライブが行われました。チケットもソールドアウトという盛況ぶりでしたが、このライブに対するご自身の手ごたえや、お客さんの反応はいかがでしたか?
今までのいちむじんにはないインパクトを皆様感じて頂けたようで、次回への期待感がかなり凄いです。自分としては、このバンドの中で、これからギタリストとして“クラシック・ギターで何ができるか?”ということ。そして、クラシック・ギターの魅力も追求していくのはもちろん、それ以外のギターにも挑戦していきたいと思っています。
オンリーワンのジャンルいちむじんを創りたい
『StillMotion』についてお訊かせ下さい。本作の楽曲はいつ頃に完成したものなのでしょうか?
13年から書いていた曲を集め形にしました。なので、この編成でなるべくしてなった音楽を作っていたんだなと改めて思いました。
ユニゾンがスリリングな「LA DANZA DE LA PASION」、お2人のギターの美しい絡みが味わい深い「万華鏡」など、現体制の集大成となる楽曲が並んでいますね。アルバムを制作する際に見えてきたトータル的な世界観やイメージってありますか?
まずは“日本らしさ”が入っていること。これは、これはからも変わらないと思います。今回もですが、やはりジャンルに捉われない“オンリーワンのいちむじん”を確立していきたいと思っています。そのためには、沢山の人に知ってもらう必要があると思っています。
7曲で住友紀人さんが編曲を手掛けていますが、なぜ住友さんを起用しようと? 住友さん作曲/編曲の「I WISH I COULD」についてコメントを下さい。
まずは、メンバー皆が信用できる人を音楽監督に立てたかったから。デビュー前から、いちむじんを見て、聴いて頂いている住友さんだからこそ、このアルバムを作るにあたり託しました。「I WISH I COULD」は、11年の終わりにいちむじんの為に書いて下さっていた曲です。今思えば、この為に書いていたのかと…予言者ですね(笑)。クラシック、ジャズ、スパニッシュの要素が入っている、いちむじんが最高に輝ける曲だと思います。
なぜアルバム・タイトルをStillMotionにしたのでしょうか?
今年の春頃、友達と飲んでいて「変わらずに変わる」という言葉が自分の口から出てきて“これは使えるなと!”。それを永田に英語にしてもらいました。
「ZIPANGU」は、山下さん独自の楽曲の構成美が冴えるナンバーだなと。この楽曲はどんなイメージで完成させたのでしょう?
“海外からみる日本”。冒頭は三味線、琴がトゥッティーでなっていて、AとBメロは“大陸を横断しているイメージ”です。中間部は、“妖艶な女性が桜満開の中で舞っているイメージ”。最後は“全てが混じり合い、世界がひとつになっている感覚”です。東京オリンピックで使ってもらえる曲をイメージしました。
「LA DANZA DE LA PASION」は、テクニカルな3声のユニゾン、渡辺さんの切れ味鋭い打楽器など、いちむじんの新たな側面を描き出したナンバーだなと。
ギターにとっては運指が難しく、簡単には弾けない曲ですね。これからライブをしていくうちに、どんどんテンポも上がり、よりスリリングになっていくと思います。ずっと弾き続ける中で、この曲はライブでどんどん進化していく曲です。
「万華鏡」は、いちむじんらしいギターのコンビネーションと、1:53から広がりのあるアンサンブルなど、デュオからバンド編成に変化する情景が味わい深いナンバーです。音数を抑えたアレンジというのは、決して簡単ではないですが、どう言ったイメージでこの楽曲を完成させたのですか?
来年の京都で行われる『世界万華鏡大会』のテーマ曲として書きました。やはり、京都でやるという事で“日本らしい色”を全体に入れました。中間部のパートは、住友さんと鳥越さんのアイデアで、万華鏡の中に入っていっているような感覚で作ってもらいました。お2人のお陰で、より万華鏡らしいイメージになりました。
鳥越さん作曲の「三春」は、現体制のいちむじんというバンドの可能性を定時した印象的なナンバーだなと。
この曲を聴いた時、鳥越さんを絶対入れたいと思いました。いちむじんにも、このような曲で「紫陽花」「ひだまり」「かけら」があり、同じ感覚があるなと。因みに、白須の曲にも「おかげさん」という同じ雰囲気の曲があり、次回に入れたいと思っています。
ラテン・ジャズの影響を感じる「リンゴ追分」、マイナーな世界観が切ない「あなたの港」が収録されていますが、なぜ日本の情緒溢れる楽曲をカバーしようと? アレンジで心掛けたことは?
いちむじんというグループが、世界で活躍するためにやはり“日本人らしさ”は必須なんです。それをどう調理できるか? 「リンゴ追分」は、早く海外で弾きたいですね。ビックリすると思います。「あなたの港」は、今年紅白に出場される演歌歌手、市川由紀乃さんのために書いた曲。ギター・アレンジもいけると思い入れました。とある人に、演歌と伝えず聞いてもらったら「アンダルシアの曲ですか」と聞かれましたね(笑)。
本作で山下さんが使用したギターは?
高知のギター製作者、川田一高さんの“いちむじんスペシャル”です。高音の伸びと、低音と重低音の響きが大好きです。
「万華鏡」の1:56以降で展開されるアンビエントな音の広がり、「I WISH I COULD」のアコースティックの繊細なサウンドなど、アンサンブルの音色にも非常に拘りがあるなと。レコーディングで拘った部分は?
いつも思っていますが、日々イメージはギターの音以上に頭の中にあるものを浸透させているんです。そして、音楽監督の住友さんとエンジニアの中村さんのアイデアも入って、いちむじんになって出来た最高の音楽ですね。
インストゥルメンタル・バンドとしてさらに進化を続けるいちむじんですが、今後バンドにとってどんな位置付けになる作品になるのでしょうか? そして、いちむじんというバンドが今目指すゴールとは?
このアルバムをきっかけに、音楽好きの方に聞いて頂けるチャンスが増えたと思っています。今までは、クラシック・ギターのファン、クラシック・ファンを中心に届いていたと思うので…拘りを持たずに日々チャレンジし、オンリーワンのジャンルいちむじんを創りたいですね。目標はグラミー賞。その後、世界を周って、沢山の人にいちむじんの音楽を通して、自分達の価値観を共有出来たら幸せだと思っています。
17年3月からStillMotionのツアーがスタートします。最後に、ツアーに対するコメントをお願いします。
5人になって初めてのツアーになりますが、今は楽しみでしかないです。毎日違うアレンジと空気感、そして未来目標を叶えていく、いちむじんをぜひ見て聞いて頂けましたら幸いです。何の用意もいらないです。ぜひ飛び込んで来てください!
Interview by TAKAHIRO HOSOE
イチムジン
スティールモーション
キングレコード CD KICS-3440
発売中 3,000円(税抜)
いちむじん「StillMotion」ツアー
3月7日@BLUES ALLEY JAPAN
3月17日@名古屋BLUE NOTE
3月18日@NHK文化センター京都教室
3月20日@大阪ROYAL HORSE
[問] https://www.ichimujin.com