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天田優子(ex.joy)×香織(the mother’s booth)スペシャル対談

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天田優子(ex.joy)×香織(the mother’s booth)
ファンタジールミネ―ション対談
「悲劇が起こらないように、
 思い出して思い出して、考えろって」

2016.7.15 対談インタビュー後編+最新インタビューアップ!

 大盛況に終わった6月1日(水)渋谷354clubに続き、2月連続のイベント「空想×反芻(ファンタジールミネ―ション)」を7月16日(土)新代田crossingにて開催する天田優子(ex.joy)香織(the mother’s booth)。共に独自のスタイルを持ったボーカリスト、ソングライターであり、自分の言葉による歌を歌える稀有な存在であるふたり。天田優子はjoyの解散を経てソロとして新たな可能性を追求しだしたところ。香織は今夏the mother’s boothとして初のミニアルバム『DEPLUME』のリリースを控える中、ソロアーティストとしても様々なコラボレーションを行なうほか、弾き語りスタイルのソロ活動もスタート。そんな双方が行なうアコースティックソロ2マンライブは、「空想×反芻(ファンタジールミネ―ション)」というタイトルが付けられて、ふたりのコラボレーションによるイベント会場限定のスプリット音源「FANTASY RUMINATION」をリリース。収録曲の2曲はルナ編と題された渋谷354club公演のアンコールで披露された。こうしたコラボへと発展を遂げたふたりの出会い、そして相通じる部分についてたっぷりと語ってもらったのがこの対談である。
 今回ルナ編としてアップされていた前半部分に続き、後半ステラ編もアップ。さらに7月16日(土)新代田crossing公演を目前に行なわれた最新インタビューもお届けする。スプリット音源「FANTASY RUMINATION」についてもたっぷりと語っていただいた!


 そもそもおふたりの出会いは?
香織:
the mother's boothが自主制作EPを出す時に、イベントのゲストアクトを探していて、人づてにゆこにんの電話番号を教えてもらって突然電話したんです。そのときのゆこにんは“なんなの、この人!?”みたいな反応で怯えていて…(笑)。
優子:そんなことないから(笑)!! 違う違う! ドキドキしただけ(笑)。
香織:ただそのときはjoyが活動休止期間中でタイミングが合わなかったのかな。
優子:joyで再び動き出そうとしていたんだけど、結果的には上手く行かなくて。
香織:だからもうこれだけ打ち解け合っているのに、今までに対バンしたことはないんですよ(笑)。YouTubeをむさぼる毎日でした(笑)。
優子:私は私で誘われつつも出れないもどかしさが続いていて…。
香織:ずーっとメールのやりとりをしていてメル友状態だったんです。しばらくしてthe mother's boothのツアーで大阪に行ったら突然来てくれて。もうそのとき会ったらイエーイって感じでした(笑)。その一週間後のライブも観に来てくれて…。
優子:急接近しました(笑)。凄く興味があったから。
香織:お互いのツイッターやブログを見合ったりながら“この娘はこういう娘なのかな!?”みたいな探り合いをしていて、(the mother's boothの)「不完全カルテ」の歌詞の話をしたときにシンパシーみたいになって(笑)。それが今回のイベントにも繋がっているんですよ。
 お互いのブログを見合っているって相当なものですね。
香織:
優子ちゃんがjoyの解散ライブについて書いているのを見たときは、“この娘強いなー”って泣けてきたもの。でも大阪で会ったら人が違ってた(笑)。
優子:(爆笑)!!
 それにしてもおふたりは急接近したわりには妙に仲が良いですよね。
香織:だってやっている音楽が近いからね。
優子:内容がね。
 でも優子さんからしたらまったく知らない女性から電話がかかってきたわけで…。
優子:
いやいや、一緒にやりたいと言ってくれる時点で私はもう感謝感激なので。それに私は頑張っている女子が好きなんですよ。自分にないものを持っている他人の部分についてはすぐ感知するから、最初っから興味を持っていましたよ。香織ちゃんがしっかりしているっていうのは、もう最初のメールの文面とかでわかるじゃないですか? バンドを一緒にまわそうとしている感が凄く伝わったから。
香織:プロモーションが苦手で悩んでいるって言ってたじゃない? それは私割と得意分野だから手伝うよみたいなスタンスで(笑)。でもさすがに最初に電話するときは勇気が要ったんですよ!
 当時優子さんはjoy再編に向けてソロライブを始めた頃で…結果的にjoyは解散することになりましたが、新しい試行錯誤のタイミングで出会ったのも大きかったようですね。 
優子:
それは大きかったですね。
香織:協力して一緒にやろうぜみたいな。なんかシーンを作りたいよね。悩める娘の…。
 悩める娘のシーンを作りたいの!?
香織:
音楽が売れないとされている時代、売れるはずなのに売れない音楽をやっているように思われているというのかな? 日本語詞をちゃんと基調にしていて、歌ものであって、女性ボーカルという。女性ボーカルのほうが売れにくい時代じゃないですか? 極端な話、今だとリスナーのターゲットが普通にアイドルになっちゃったりするという。今はひとつの女性バンド、ひとりの女性アーティストって単体だと売り出し方が難しいから。
 良い歌詞を書いて良い歌を歌っている、そういうシンパシーを感じる人とはなかなか出会えないものなんですか?
香織:
本当、そう。
優子:香織ちゃんともやっと会えたって気がするから。
香織:私の中ではひぃたん(湯野川広美/ジン)とも近いですね。ひぃたんはソロでやっていくスタイルをすでに身につけている気がするけれど、私達はまだそのスタイルを探しているので。ただ音楽的には近いものは感じますね。私達がターゲットとすべき人達に見つけてもらうためにも一緒にやる感じかな。

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楽しいこともツラいことも
全部自分のものじゃないですか(天田優子)


 優子さんは天田優子としてソロキャリアを歩み始めたわけですが、今までの続きを追い求めるというより、まったく別の道を行く?
優子:
そうですね。作りながら見えてくるのかなって。なんかjoyが活動休止してから曲は書けない、歌詞も書けない…凝り固まっていていたんです。
香織:休憩していたの?
優子:あのね、なんか心の中に掛けてしまった鍵を探しているの。もう傷つき過ぎて、ハハハ(笑)。
 ハハハって…。
優子:
その鍵で開ける鎖でぐるぐるとなった小箱があると思うんですが、それを開けたら空っぽだったらどうしようって思ってる(笑)。
 それはないでしょう…。
優子:
いやいや、見つからないんです、本当に。何処にあんねんって。ほら、見つかっても旬が過ぎて腐ったりすることもあるじゃないですか? それでも頑張っているんですけど。
香織:私も弾き語りをやり始めてわかったんだけど、バンドでやる自分の音楽と弾き語りでやる自分の音楽とでは全然違うんだよね。
優子:そう! 全然違う!
香織:1からのスタートじゃない?
優子:そうそうそうそう! だからこそ新しい曲を作らないといけないと思うし、そういう発見が例え嫌々やっていたとしても、全部自分に返ってくるから。3年くらい曲が書けなかったけど、それを人に相談すると“一人でやっているからハードルが上がっているんじゃない?”って言われる。前日に作って“めっちゃ良いやん!”って思っても、次の朝になって聴くと“なんだこれ、しょうもないやん…”って思うんですよ。
 しょうもなくていいからそれを聴かせてくださいよ…。
優子:
(笑)。関係者で聴きたいって言ってくれる方は、(完成形までの)その過程を知りたいと言ってくれるから。それは意見を交換して初めて気づくことで、全部自分ひとりで作っていると、良くはないように聴こえてくるんですよね。しかも傷ついた記憶も残っているから、“こんなしょうもない人間が書いた曲なんて誰が聴きたいんだ!?”って思うし…。でも弾き語りなどでライブをすると、ダイレクトにお客さんが良かったとか、もっと聴きたいとか言ってくれるのを感じて。“あ、やっても良いんだ!”っていう確認作業だから。結構しんどいけれどライブを無理矢理決めて、やりながら変わっていって自然に作れるようになれたら良いなって。私、joyのときも実践で憶えるタイプだったから。
 そうは言うけれど、聴いている僕らはもっとしょうもない人間かもしれませんよ。
優子:
いやいやいや、私は自分以外の人間がみんな素晴らしく見えるんですよ。
香織:自分もしょうもないとして、みんな傷つきやすいと思ってる。みんな絶対もっと敏感なはずじゃない? それを忘れているんですよ。それを忘れさせたくないんですよ!
優子:そうそうそう! めっちゃ思う。なんで無視すんのって。
香織:もう繰り返さないために、忘れないために歌うんですよ。私が歌うテーマはまさにそこで、悲劇とか哀しみとか幸せも。忘れたら絶対また繰り返すから。だからしょうもないなんて思ってない。みんな傷つきやすすぎて隠しているんでしょう? 忘れようとしているでしょう? でも忘れない方が今後のためですよってアドバイスをしているんです。
 今後のためなんだ?
香織:
だって失わないかもしれないじゃない?
 PTSD(心的外傷後ストレス障害)になるかもしれないですよ。
香織:
もう世の中全体がPTSDですよ(笑)。
優子:私にとっては考えることこそが生きることなんですよ。だからツラいこととかを無しにするのかが凄く不思議で。
 ツラいことくらい忘れさせてくださいよ…。
優子:
いや、楽しいこともツラいことも全部自分のものじゃないですか!
香織:うわ、私よりもポジティブだ(笑)!
優子:私は自我が強過ぎて。自分しかわからない感情なのに、なんでもっと自分のことを見てあげへんの?とは思うんです。

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見てきたものを、絶対忘れるなよっていうのを
まず自分に言いきかせたい(香織)


 優子さんは自分のことは好きですか?
優子:
好きだけれど嫌いです。他人から見た自分は最悪だと思うんですよ。他人から植え付けられた価値観で行くと、あまり良くない人間やなって。
香織:優子ちゃんは自分のことを観測するのが好きだよね。自分の内情を話す言葉が凄い具体的でリアル。普段から自分のことを見てない人はこうは喋れない。
優子:それはめっちゃ言われる(笑)。joyの「メイルシュトローム」という曲で自分の凄く汚い部分を全部歌っているんですけど、自分の心の核にある“なんでこんな台詞を言ったのか?”“なんでこういう言い回しにしたのか?”とか、“今なんで自分がこういう行動をとったのか?”とか…。
香織:深層心理を調べたいのね?
優子:自分の元の方向がわかっているから、“嫉妬があってこういう言い回しをわざわざしたな”とか、“今この人にこう思われたいからこういう言い回しにしたな”とか。瞬時に“自分ってめっちゃ性格が悪いな”って気づくんですよ。そのたびに自分のことを嫌いだなって思うんですけど…。結局自我が強過ぎて、自分のことは大好きだし興味があるけど、評価として好きではない。本当はもっと綺麗な人間になりたい…でも無理ですけどね。
香織:何処を自分とするかだけどね。他人から見られている自分が自分を構成しているのなら、もうそこは必要のない部分があるし。
優子:でもやっぱり他人がいて自分が成り立っていると思うから。結局他人からよく思われたいからやるけれど、それは理性とか後天的なものであって、もっと根本的なものを見れば良くない人間というか。私はずっと性悪説を唱えていて、人間なんて生まれながらに良い人なわけないって生きてきたんですけど。でも案外そうじゃない人もいるやん? 気づいてないだけかもしれないけれど、こんな心の綺麗な人がいるんやって、気づいた時にはめっちゃパニックになる…それが「メイルシュトローム」。
香織:私の場合は、自分についてそこまで考えるっていうのはないな…。自分が把握する世界が全てじゃない?って感じがあるし。自分のことじゃなくて他人のことの方が考えてるかも。その人が“どうしたら傷つくか?”“どうしたら人を傷つけるか?”しか考えてない。優子ちゃんのほうがポジティブでした(笑)。私は絶対に失うから、考えておけ、勿体ないぞっていう考え方…まず“絶対に失う”っていうのは揺るぎない(笑)。
優子:それわかる(笑)。ただ優子は多分強欲過ぎて、年始の時に人間を超えたいって思った。
香織:何を言ってるんだ、この娘は(笑)。
優子:ハハハ。それを自覚して早く自分が人間だってことを受け入れなきゃいけないなって…。
香織:でもそういう面で自分に期待しているところはあるかも。自分が何もかもこなせるって思い込んでいるというか、限界を向かえないはずだって信じてやっているから。
優子:そうそうそう! でも全然なの…絶対死にたくないんよ。150歳までは生きたい(笑)。
香織:私は明日死にたいくらいだから(笑)。
優子:そこで違ってくるんだね。
香織:いつも生きるために、まだ死ねるって確認して生きてる。なんかツラいことがあったときに、私には死ぬって道があるから大丈夫、だから今日も生きていける。ある意味ネガティブだしポジティブ。いつでも自分で終わらせられるんだからまだ良いじゃない? 死ねなくなったときが一番地獄なんだよ。逃げ道がないってわかっちゃうから。
優子:なるほどね。思っていることは違うけど、常に死ぬことと生きることを考えているところは一緒なのね(笑)。
香織:だから暗いって言われるんだろうね(笑)。
 別におふたりを見ていて暗いとは思いませんが…。でも何故おふたりは音楽に道を見出したんでしょうね?
香織:
音楽は手段だよね。見てきたものを、絶対忘れるなよっていうのをまず自分に言いきかせたい。
優子:私は見つけて欲しい、誰かに。誰も自分のことを思い出してない瞬間って絶対あるやん? それっておらんのと一緒やん?
香織:それは思う。(the mother’s boothの)「DID ENOUGH」で歌っているけど、私以上に私のことを今考えている人はいないなって思うでしょう?
優子:そう。こんなにいろんなことを考えて、たまに何か行動しているし苦しんでいるのに、見つけてもらえないと思うといないのと一緒だから。自分のところだけポッカリ穴が空いたような気分になる。
香織:私の場合はそういう人を作らないために皆さんお願いしますって感じ。私はもういいなって。
優子:献身的?
香織:献身的っていうか、自分のことはもう諦めているんだと思う(笑)。悲劇が起こらないように、思い出して思い出して、考えろってみんなに思う感じかな。
優子:それは凄いわかる。もっと考えて欲しい、みんなに(笑)。
香織:考えて欲しいよね。その目的が違っているだけだよね(笑)。


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根底には“みんな聴いてよ!”っていうのがあるから
認めてもらえたら凄く嬉しい(天田優子)


 おふたりは何故歌おうと思ったんですか?
香織:
比較的得意だったからじゃないかな。歌うと手段を選んだのは多分そう。
優子:それはわかる。歌ってみたら“歌えた!”みたいな(笑)。
香織:ね? 自分で歌詞を書いて歌うのは、(誰かに悲劇が起こらないように、傷ついた過去を思い出して、どうしてそうなったかを常に考えて)忘れないようにって反芻するためです。
優子:曲については最初そんなにモチベーションがなかったんです。誰かに聞いてもらおうって感じでも思ってなかったし、周りで曲を書く人がいなかったから書き始めたけど、書いてみたらあんなだったという(笑)。結局自己分析の塊という…。
 以前のPlayerのインタビューで、優子さんはゲームミュージック的な世界も好きって仰っていましたよね。
香織:
空想、妄想するのが好き?
優子:なんかね…。
香織:ないものを求めているんだね。
優子:そうそう!
香織:私はどっちかっていうとあるものを出したいの。今まで溜め込んできたものを出していのよ。
優子:私の場合、想像できちゃうことってあるものと多分錯覚していると思うんです。いろんな可能性ってあるやんか? 自分がこう動いたらこうなるだろうし、こう動いたらこうなるかもしれないしっていう、いっぱい場合分けしてある中のものが全部あるように感じているの。全部あるわけないのに、選ばないとそこにはいけないし、選んだとしてもそうなるかはわからないのに。あるものとして捕らえて、それになれないのがしんどい。
 それは確かにしんどいですね…。でもjoyで『カレイドスコープ』を作ったとき、わりと現実的な描写の方向へ行こうとしていませんでした?
優子:
そうですね、ちょっとだけ。そんときは自分にとってリアルだったというか。多分いろんなインタビューで言ったと思うんですけど、それはjoyがある程度確立できてきたから、もうちょっとリアルに書いてみてもぶれへんかなと思って書いた曲は何曲かありますね。
 その方向性でどんどん行こうとは思わなかったんですか?
優子:
あまり私はこういう風にしたいとか考えなかったんです。自然に出てきたものをそのままやっていたから。
 自然に出てきたものをどうやってジャッジしていたんですか? ジャッジするポイントに何かしらの意味ってありますよね。
優子:
何で選んでいるのか自分でもわからない。あまり計画性がないんですよね(笑)。
 あまり理論武装するタイプじゃないんですよね。そこを行くと香織さんは理論武装の塊だと思うんですが…。
優子:
そうなんや?
香織:いや、わからない(笑)。 
 香織さんの場合、意地悪い質問をしても何かしら返してくるというか(笑)。
香織:
意地悪い質問をしているんですね…っておい(笑)!
優子:私も一度誰かと喧嘩したときに、“おまえロジカルモンスターやな”って言われたことがあって(笑)。理詰めして逃げ道ないようにするみたいで…。自分の創作活動に関しては逆にわからないくらいの方がいいかなと思って、自由にやっています。
 意味の有無の理詰めってなかなか難しいとは思います。
優子:
その意味っていうのが、多分一度メジャーから作品をリリースしたことでちょっと変わっちゃったんですよね。前は作って自分で良いと思って満足して、それを他人に聴いてもらって良いと言ってもらえるというやりとりが、もっと健康的だった気がするんです。今はそこに別の判断材料が自分に混じってきちゃって、それによってすぐ意味がないって判断になっちゃう。“こんなの誰も聴きたくないんじゃないか”とか…。元々は聴いてもらう音楽って意識で作ってなかったはずなのに、それが段々難しくなってきちゃった。もっとピュアだったと思うんです。
 今はピュアに戻ろうとしているんですか?
優子:
本当、そうですね。今は毒をぬいているつもりなんです。
 「ジニア」はまさに現実とかなり向き合って書いた歌詞ですよね。
優子:
そうですね、「ジニア」はもう今聴くとバンドのことが思い浮かんで泣いちゃう。
 『カレイドスコープ』で取材したとき、「ジニア」が次作に繋がるキーになる曲だと思ったんですが、
優子:
そうですよね、それ言われたの憶えています。
 そのときの解答がまたやんわりとしたもので、“別にそういうわけじゃないです”って…。
優子:
(笑)。
香織:ウケる(笑)。
優子:だから意図してないんですよ。作品としてこの曲はこうしたいっていうのはあるけど、バンドの今後のためにその曲でこうしたいっていうのはないから。
香織:それはないね。
優子:出てきたものをピュアに自由にやるっていうのしかやってきていないから。運用する感じ…駄目なんですよ(笑)。
香織:私はちゃんとプラスの要素が多いか、マイナスの要素が多いかは、あてる曲によって変えているんですよ。周りから見てもわからないかもしれないけど(笑)。
 でもそれ49%と51%の差ですよね。
香織:
違う違う(笑)。30と70の違いはありますよ。「サマーエスケープ」とかプラスが70%ですよ! 全然明るい。サビなんか“輝け 世界”だよ? めっちゃ明るいでしょう?
優子:あ、それはなかなか書けへんね(笑)。
香織:それくらいのチャレンジはしなきゃと思って。でもその反動として30%くらいのマイナスを入れなきゃって、“バベルの空”って言う言葉を入れてる(笑)。
優子:今度優子が曲を書いて、香織ちゃんが歌詞を書いたら面白いと思う。
香織:それやろうよ! 書く書く。
 2曲作ってもう一方は優子さんが歌詞を書いて、香織さんが作曲してみたら?
香織:
ところが曲をつくるのが凄く遅いから。書ける気がしないもん(笑)。
 ただ優子さんのメロディを他の人がうたっているのって想像つかないですね。
優子:
みんな歌いづらいそうでしたね、たしかに。
香織:へぇ、それ凄く興味がある。
優子:言葉を詰め込んじゃうからかな。でも香織ちゃんも結構詰め込む方だよね?
香織:そうだね。作詞はいろんなところでやってきているから、作詞で困ることはない。
 歌詞のスタイルとしてはおふたりタイプが違うんですよね。実は優子さんの歌詞っていわゆる歌謡曲フォーマットの作詞には否定的な人なのかなと勘違いしていたんです。そういうものにまったくないイディオムを持ってくるようなイメージがあって…。
香織:
なるほどね…。
優子:私、邪道なんだと思う。
香織:いや、私は凄くバランス志向なの。
優子:香織ちゃんは優等生な感じがする。凄くできあがっている、ちゃんと。
香織:それだけの飛び出抜けたものを使ったら、それを戻すくらいの何かとかバランスをいっつも考えているから。いつも異質なものを入れてもそれが自然に見えるようには心掛ける。
 優子さんの歌詞って、日常会話とは違うんだけれど、翻訳小説的な美しい言葉の世界観があって。洋楽の対訳の歌詞を見ているような感じというか。一人称もバラバラだし…。
優子:
そうそうそう!
香織:凄いな、それ。バランス志向だから私それ駄目だ(笑)。
優子:感覚でしか書いてないからな…。
香織:私はそれを狙ってやっちゃう。
優子:私、歌詞書くの凄い嫌いなんですよ(笑)。だから書くのがめっちゃしんどい! 曲を作る方が好き。
香織:書くのは私もしんどいよ。どれだけ書いて削っているんだっていう…。
優子:めっちゃしんどいし、言いたいことがなかなかうまく言えないし…。曲ありきなのでどれだけうまくハマるかっていう。
香織:それが超楽しい。パズルパズル。
優子:…楽しくない(苦笑)。あと書いていると自分の嫌なところばかり見えてくるから。
香織:出た(笑)。
優子:それでこれを世に出していいのかとか、歌っていいのかってなってくるから凄く嫌なんですよ。
 で、それを僕らが絶賛するわけですよ。
優子:
あはははは(笑)! でもわかって欲しいのが、こんな最低な私でも、根底には“みんな聴いてよ!”っていうのがあるから、認めてもらえたら凄く嬉しい。
 しかも優子さんが歌っている歌詞を都合よく誤解して受け止めている可能性もあって。
優子:
それは感じるときがある(笑)。ちょっとずれていたりとか…。“え!? そこなんや…”とかそこはモヤモヤしています。
香織:モヤモヤするんだ? それを売りにしちゃえばいいのに。
優子:まるごと私を好きになってって思っちゃう。
香織:あぁ、やっぱり思っちゃうんだ。理解が足りんぞと(笑)。
優子:そこじゃないって(笑)。
 香織さんの歌詞はわりとわかりやすいと思うんですけど、何処かそのまま受け止めていいほど単純じゃないだろうと思わせる節もあって、でもその裏を読むみたいなことをやると“考え過ぎです!”って言われたり…。
優子:
なるほど(笑)。
香織:そうやって狙っているところも勿論あるんだけど、それを含ませておくと歌詞が一人歩きして全部そう受け止められるんだよね。その人の思いたいように受け止めてくれるから、私はそれを楽しんでる(笑)。
優子:私、こんな人間やって歌詞を読んでくれたらだいたいわかると思ってたんですよ。
香織:わからないよ!
優子:そう、ちょこちょこ誤解を呼んでいるから。伝わらないもんやなって(笑)。そのくせ他人に期待されたらそれに応えないとって思うタイプだから。

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譲れない感覚がズレていなかったので
実現はスムーズでした(香織)


 「空想×反芻(ファンタジールミネ―ション)」は2月連続なのがユニークですよね。
香織:
そもそも私の場合はソロで活動する機会がすごい少ない上に、優子ちゃんとの共同企画ということで一回で終わらすのはもったいないと思って二回にしようという話になりました。共同音源も会場限定での発売を予定してたので、一回じゃ来れない人に申し訳ないなーと。
優子:そうだよね。実際共作CDはルナ編でありがたいことにたくさんの人に買っていただけたし、その後増産もしたので2月連続にしてよかったと思う。
 しかも「ルナ編」「ステラ編」という2つのコンセプトが提示されました。
香織:
私たちの内面に一つの物事に陰と陽が共存してることをわかりやすくするために、対となる言葉を探していました。なるべくどちらが良いとか悪いとかでは無く、2つの視点をイベント名で表現した感じです。
 面白かったのはおふたり2ステージ制のライブで、真ん中でゲストをサンドイッチするという構成もユニークでした。おかげで仕事などで遅れてきた人でもおふたりの演奏が観ることができるという意味で良いアイデアでしたね。
香織:
やっぱりイベント全体を楽しんでもらいたいと言う気持ちが強かったので、ベストな方法にしました。それぞれを彩ってくれるゲストさんもなるべく見て欲しかったですし。
 第一回のルナ編では湯野川広美(ひぃたん/ジン)さんがゲストで、会場には風船が満載のドリーミーなムードでした。ひぃたんは風船が割れるのが苦手で、あのひぃたんをたじたじにさせたという(笑)。第一回の手応えはどうだったか?
香織:
手応え的にはルナ編本番になるまで優子ちゃんと私の世界が実際交わるのか不安だったけど、やってみれば何のことはなく、私と優子ちゃんの世界でした。ひぃたんのたじたじは予想外でしたね(笑)
優子:あの怖がりようは半端なかったよね(笑)。でも私はひぃたんとはあの日が初めましてやったから、あれでだいぶ和んだ気がする。風船のおかげって言うとひぃたんに申し訳ないかな(笑)
香織:結果としてひぃたんのHPを減らすことに成功しました(笑)
優子:(笑)。ステラ編はもう少し平和な(風船も至って平和やけど)装飾にする予定です!!
 そして共演シングル『FANTASY RUMINATION』もリリース。アンコールでも披露されました。この2曲はどのように曲作りしていったんですか?
優子:
共作音源はまさにこの対談で盛り上がったのがきっかけだよね。曲を書く上での共通点が多くて、どちらかと言えば香織ちゃんが作詞、優子が作曲が得意?好き?やったから、じゃあそうしよう!みたいな(笑)
香織:そうだね。やっぱりお互いの歌詞や曲に対して、違和感を感じなかったんですよね。違和感を感じる相手とは、正直共作できないって思えます…(笑)。譲れない感覚がズレていなかったので、実現はスムーズでした。
優子:曲作りに関しては、香織ちゃんの声を想像しながら、香織ちゃんの声が目一杯活かされるようなメロディを意識して作って、でもその中にも優子節がチラッと見えて、新鮮さも感じてもらえるようなものにしようと思ってこだわって作りました!
 おふたりのボーカルスタイル、声の感じはまるで異なる印象ですが、その異質な感じが2曲のストーリーを膨らませているようで予想外の効果を生んでいました。
香織:
本当ですねー!(笑)。不思議なことに、陰と陽、2人がどっちでどっちなのかわからないというか、セクションやパート担当によって意味ありげなのに感じ方によって変わるんですよね。
 優子さんのアコギと2人のボーカルだけのシンプルな音世界ではあるが、その世界観は何処かスペーシーで拡がりが感じられるのが面白いんです。
香織:まったく違う環境下でレコーディングをしているので、それが良い方向に生きてるのかもしれません。
優子:2曲とも必死で宅録したよね(笑)。アコギとボーカルだけっていうシンプルなものやから、広がりや空気感は試行錯誤してこだわって録りました!香織ちゃんも必死でミックスしてくれました(笑)
香織:時間も全然無くて、大変でした(笑)。後半は本当に狂いそうでした(笑)。
 香織さんの声質や歌い方をイメージしながら、優子さんは曲作りしたようですね。各々の歌うパート、ハーモニーなどはどのように決めていったんですか?
優子:
個人的に香織ちゃんの低い声がかっこよくて好きなので、その辺を推し出したいな、と。この2曲では、「アストロラーベ「が先にできたんですが、特に「アストロラーベ」はその辺をとても意識して作ったのですごく楽しかったです。Aメロの前半は香織ちゃんに歌ってほしくてあのメロを作ったので、そこは完全に香織ちゃんに譲りました(笑)
香織:なのでAメロ前半は私、っていうところからパート分けしていったよね。
優子:そうだね。あと「地球照」は雰囲気や流れを大事にしたかったので、一番と二番に分けてじっくり聴いてもらえるようにしました!
 優子節に香織ワールドの言葉の世界が重なるというマッチングが魅力的ですよね。優子さんは香織さんから仕上がってきた歌詞をどう思いましたか?
優子:
香織ちゃんの歌詞をもらった時は、全然違和感がなくて、特に言葉の選び方とかが似てるんだろうなと思いました。なのですっと受け入れられました。不思議な感覚でした(笑)
香織:それは良かった。本当に良かった(笑)
 ルナをイメージした「地球照」は冒頭から印象的な不思議なコード感で、これがおふたりの擁しているミステリアスな陰と透明感が綺麗に表出している気がします。
香織:
私的には「アストロラーベ」は嚙み砕くのに少し時間が要ったけど、地球照は最初に聴いた瞬間に神曲になるなと思いました(笑)
優子:「地球照」は「アストロラーベ」とはちょっと違って、どちらかというともっと雰囲気重視というか、お互いが持っている共通する陰の部分みたいなものをイメージしながら、纏ってる雰囲気や色味、歌ってる時の表情なんかを想像しながら書いたように思います。
香織:作曲で見事に表現されてて、作詞に2時間程度しか掛かりませんでした(笑)
 一方、アッパーな「アストロラーベ」は二人それぞれのソロでプレイしても代表曲になりそうなくらいのキラーチューンです。
優子:
「アストロラーベ」も「地球照」も、香織ちゃんに提供するくらいの意気込みで書いたから、私的には全然ソロでやってもらっていいし、香織ちゃんがオッケーなら私も気に入ってるし、機会があればやりたいなーと思ってます(笑)
香織:オッケーオッケー!(笑)...でも、再び2人の共演の時まで取っておきたいって気持ちもある(笑)。私的には「アストロラーベ」はこれぞ優子ちゃんの曲の代表格っていう感じの印象かな。優子ちゃんの曲はBメロが神だなっていつも思ってるんですが、この曲もBメロがたまりません(笑)
優子:まさかそんなこと思ってもらえてると思ってなくて、意表を突かれてドキッとしてしまった(笑)初めて言われた気するけど、なるほど、と思うと舞い上がってそんな気してきて自信がつきました(笑)。ありがとう!!!!!
香織:イケメンだろ(笑)
 最後の質問になりますが、このジャケットも素敵ですね。
香織:
齋藤マサツグ氏に描いて頂きました。
優子:香織ちゃんが依頼してくれて、確かうちら二人の曲とか聴いてイメージして描いてくれた、みたいな感じやったっけ?で、送られてきた画像見て、なにこれ完璧!即決!みたいな(笑)
香織:即決だったね(笑)。ファンタジックで素敵!根が暗いんで、こんなにファンタジーに描くのは自分ではできないなと思ったので本当に齋藤氏を含めて二回目の化学反応をしたと思います(笑)

Interview by KAZUTAKA KITAMURA

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『エウレカセブンAO』のED曲「アイオライト」でメジャーデビューしたjoyの元ボーカル・天田優子、亀田誠治氏の公式サイトにておすすめアーティストとして紹介されるなど注目を集めているthe mother's booth。そのボーカリストであり作詞手掛けたボカロPたかちゅう氏のデビュー曲がニコニコ動画にて再生回数ミリオンを超え、殿堂入りを果たすなどでも話題の香織によるアコースティック2マンライブ決定! ふたりのコラボレーションシングル「FANTASY RUMINATIONも発表するなど、ソロアーティストとしての可能性も追求しはじめた天田優子、香織にしかできないスペシャルイベントが2月連続で開催される。さらにゲストにはジンのボーカルで現在ソロ活動を展開している湯野川広美「プリングミン」の元ボーカルで木村カエラのコーラス等でも活躍しているMAYUMI YAMAZAKIの出演も決定。

お月様ルナ編
6/1(wed)渋谷354club
open19:00 start19:30
adv¥2500 door¥3000 (+1D)
guest:湯野川広美(ジン ひぃたん)

星ステラ編
7/16(sat)新代田crossing
open19:00 start19:30
adv¥2500 door¥3000 (+1D)
guest:MAYUMI YAMAZAKI