アメリカを拠点に活動する実力派女性シンガーソングライター、エミ・マイヤー。彼女の新作『ギャラクシーズ・スカート』がプランクトンよりリリースされた。2009年リリースの1st『キュリアス・クリーチャー』以降、自身でセルフ・プロデュースを手掛け、クラシックやジャズからの影響を感じさせる知的で味わい深いピアノの伴奏、表現力豊かなボーカル、独自の世界観を持つ歌詞で人気を博してきた彼女だが、本作ではプロデューサーにジョン・メイヤー・バンドのギタリストとしても知られるデビッド・ライアン・ハリスを招集。ディープに心に染み渡るノスタルジックな音楽性はさらにエモーショナルさを増し、圧倒的なスケール感で聴くものの心に訴えかけてくる傑作に仕上がっている。そんな彼女が今回インタビューで、これまでのキャリアについて、新作完成までの経緯について、5月中旬に始まるツアーについて語ってくれた…。
今回はボーカリストとしての自分をより打ち出したかった
小学校の頃にクラシック・ピアノを習い始めたそうですね?
6歳でクラシック・ピアノを始めたんです。日系アメリカ人のミチコ・ミヤモトさんという大好きな先生に習っていて本当に色々なことを教えてくれました。クラシック・ピアノは大好きなんですが、ソロ・ピアノではなく他の皆と一緒に演奏したかったから12歳の頃ジャズ・ピアノを始めたんです。セロニアス・モンク「ラウンド・ミッドナイト」やアントニオ・カルロス・ジョビン「イパネマの娘」を演奏していました。歌い出したのはカルフォルニアの大学に入学する頃で、それから自分で曲を書き始めました。
そういった曲が1st『キュリアス・クリーチャー』(09年)に収録されているわけですが、なぜ作曲をはじめようと?
歌を始めたきっかけになったレゲエ・バンドのシンガーが「曲を書いてみなよ!」って言ってくれて始めたんです。当時は、書き溜めていた詩にメロディとハーモニーを付けて曲にしていったんですが、それが楽しかったんですよ。
今までに影響を受けたミュージシャンは?
色々な人が好きですね。バッハやショパンといったクラシックの作曲家、ジョージ・ガーシュウィンといったジャズの作曲家、マイケル・ジャクソン、TLC、マライヤ・キャリーもそう。コールドプレイやジョン・メイヤーといった男性シンガーが好きでした。ジャズ・ピアニストだと、セロニアス・モンク、アーマッド・ジャマル、サイラス・チェスナットですね。
個人的にキャロル・キングの影響を感じたのですが…。
1stをリリースした出した時によく皆からそう言われましたね。でも、当時はまだキャロルを聴いたことがなかったんです。ジャズやクラシックの影響を受けて弾き語りをするスタイルが同じだったり、ソングライターとしてキャリアをスタートさせたりと、似た共通項があるからそう感じるのでしょうね。
普段どのように作曲をしていくのですか?
曲のアイデアから詩を書くこともあるし、その逆もあるし色々ですね。今思えば、家族や友達などをテーマにした自分のパーソナルな部分を曲にしていました。まだオーディエンスの存在を意識してなかったし”他人が自分の曲や音楽性をどう思うか?“は考えなかった。でも、今は私に関係している色々な人達のことを思いますし、自分の中の目線が変わりました。
歌詞はどんなイメージで? 2nd『パスポート』(10年)では全曲日本語で歌詞を書いていましたよね。
歌詞は自分の生活の中で感じたことをテーマにすることが多いです。私には日本人の血が流れていますし、日本と日本語は大切なアイデンティティー。だから、ソングライターとしてのスタンスを考えた時に2ndは全曲日本詞でトライしようと思ったんです。
英語と日本語の両方の素養を持ち合わせているエミさんの魅力を感じたのが、3rd『スーツケース・オブ・ストーンズ』ボーナス・ディスク収録の「ア・サマー・ソング」と「ア・ウィンター・ソング」でした。これらの曲はそれぞれ英語と日本語の2バージョンを収録していましたよね。
それぞれの言葉に独特の響きや世界観があっておもしろいですよね。日本語で曲を書く時は詩を先に書きますね。英語の場合はメロディのアイデアから歌詞に繋げる場合もあるし、歌詞から始めることもあるし色々です。
新作『ギャラクシーズ・スカート』について訊かせてください。本作はどの位の制作期間を掛けて完成したのですか?
普段アルバムを作る時は、その前に10曲ほどのストックができてからレコーディングするんです。昨年ミニ・アルバム『LOL』をリリースしてからだんだんと曲を書き溜めていきましたね。レコーディングは今年2月にLAのザ・バンク・スタジオで1週間くらいをかけて行いました。
本作におけるコンセプトは? 『キュリアス・クリーチャー』や『スーツケース・オブ・ストーンズ』の様な70年代ジャズやR&Bのテイストを感じさせながらも、それぞれの曲にキラキラした質感が宿っていたのが印象的でした。
これまでは、歌とピアノで曲を表現するシンガーソングライターとしてのスタンスだったけど、今回はボーカリストとしての自分を出しながらバンドメンバーと一緒に音楽を作りたかったんです。これまではアルバムをセルフ・プロデュースで完成させてきましたが、今回は外部のプロデューサーに依頼して互いの相乗効果をアルバムに持ち込みたかった。だから、ジョン・メイヤーやデイヴ・マシューズのサポート・ギタリストとしても知られる、デビッド・ライアン・ハリスさんにプロデュースを頼んだんです。MySpaceで彼の「フォー・ユー」という楽曲を聴いたことがあって、そのメロディや世界観に強く惹かれたんです。デビッドさんにコンタクトしたのは11年の冬で、それから彼に会いに行ったり、ライブをしたり、トントン拍子で話が進んでいき、今回プロデュースしてもらうことになりました。今回は、ピアニストとしての自分を消すというか、音楽を優先にして自分の個性を表現したかったんです。だから、彼にその話をして、彼の知り合いでもある、ザック・レイ(piano)、ヴィクター・インドリソー(ds)、シーン・ハーリー(b)、マイケル・カーヴェス(g)さんといった、素晴しいミュージシャン達を紹介してもらい一緒にレコーディングしました。ピアノは「ニューヨーク」と「ワット・ウッジュー・セイ」で少し弾いたくらいで、他はザックさんが弾いています。
なぜ一度歌とピアノを切り離そうと?
良い経験になるなと。それに、自分でピアノを弾いた場合、リズム感に個性があるからバンドだと他のミュージシャン達とうまくリズムが共有できなかったり、左手の音がベースの音域にぶつかったりする。今回は、他のミュージシャン達に曲を委ね、彼らとの相乗効果を期待したんです。アレンジは、デビッドさんに曲を聴かせてアイデアを交換しながら固めていきました。曲を聴いて「どんなイメージがあるの?」って確認してくれてという感じ。
そういった相乗効果が「ギャラクシーズ・スタート」の中盤のギターパートに活きていますよね。
そうですね。あれはレコーディング後に彼がエディット作業をしあの効果をプラスしたんだと思います。
この曲の歌詞は、スーフィー(イスラム神秘主義)の詩人、ルーミーにインスパイアされて書いたものだそうですね?
ええ、スーフィーの世界観は友愛的な絆の強さがあり、愛を語るラブソングに通じるものがあるんです。そういった部分にインスパイアされミステリアスな歌詞を書きました。
デビッドさんと一緒に共作した「アイ・キャント・ゲット・イナフ・オブ・ユー」や「ToKyoTo(トウキョウト)」では、ギターならではの世界観を押し出したサウンドが印象的でした。
デヴィットさんが聴かせてくれた“アイデアの種”から気に入ったものを選び、互いに意見交換しながら発展させていきました。
ブレット・デネンさんと書いた「ブラック・シープ」やジュリアン・ヴェラートさんと書いた「ニューヨーク」は、それぞれのアーティストのキャラクターが反映されていますね。
ブレッドさんのアフロポップな要素が昔から大好きだったんです。彼がギターを弾きながら歌ってくれたメロディを聴き、それを私がピアノで発展させ形にしていきました。ジュリアンはニューヨークで会って、彼もイギリスとアメリカを行き来していたので共感を覚えて。少しラフだけど、活気があって人を魅了するこの街について一緒に曲を書いたんです。
「トウキョウト」と「ニューヨーク」といった異なる国の街をテーマにした2曲に、エミさんのそれぞれの都市に対する思い入れを感じました。
ニューヨークは去年も住んでいて、雑だけど色々な要素が混じり合いパワフルなところが好き。「トウキョウト」は東京と京都という2つの街をモジっているんです。日本は私に接してくれる人達の気遣いが好きで、京都は私が1歳になる前まで住んでいた思い入れの深い場所。鴨川にはよく行ったし、今も付き合いのある大切な友人達が暮らしています。逆に、東京は凄く刺激的でエネルギッシュ。そういった大好きな街に対する気持ちを歌っています。
「ワット・ウッジュー・セイ」の世界観がとても好きです。
あの曲は、大学に入った頃書いた初期の曲なんです。友人に聴かせたら「ちょっとヒッピー過ぎじゃない?」って言われたので、今までアルバムには収録しなかった。でも、個人的には凄く思い入れがあったし、“環境破壊”というテーマに繋がる歌詞だったので、今の自分には良いかなと思いました。
5月19日から『ツアー“ギャラクシーズ・スカート 2013”』が始まりますね。今回のツアーはどういったものになるのでしょうか?
レコーディングではLAのミュージシャンと演奏しましたが、今回のツアーでは素敵な日本のミュージシャン達と一緒に演奏します。今回はキーボーディストが入り、『ギャラクシーズ・スカート』の曲中に鳴っているシンセサイザーのレイヤリング・パートを再現してくれるので、広がりのある曲の世界観がしっかり演出できると思います。私自身も、ピアノを弾いたり、ステージ中央に移動して歌ったりと忙しいですが、皆さんと楽しい時間を一緒に共有できるように一日一日良いライブをしようと思っています。
今後どんなミュージシャンになっていきたいですか?
実はあまり明確なイメージはないんです。自分に素直になりながら成長していきたいですね。まだ漠然としたイメージなんですが、次回は日本語で歌詞を歌ったアルバムを出したいなと。一つ一つの出来事を大切に自分なりにがんばっていきたいですね。
Interview by TAKAHIRO HOSOE
エミ・マイヤー
ギャラクシーズ・スカート
プランクトン CD 発売中
限定盤CD&DVD:VITO-116 3,360円
通常盤CD:VITO-117 2,835円
【ツアー“ギャラクシーズ・スカート2013”】
5/19(日)横浜 GREENROOM FESTIVAL
6/1(土)静岡 頂 ITADAKI 2013
6/15(土)福井 ハーモニーホールふくい
6/23(日)名古屋クラブクアトロ
6/24(月)梅田クラブクアトロ
6/25(火)広島クラブクアトロ
6/27(木)熊本 ぺいあのPLUS'
6/28(金)福岡 イムズホール
6/29(土)大分 湯布院 アルテジオ美術館
7/1(月)長崎県美術館 エントランスホール
7/4(木)Shibuya O-EAST
7/6(土)静岡 焼津文化会館
7/10(水)山形 文翔館
7/21(日)北海道 JOIN ALIVE 2013