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トーマス・ズァイスン『ナイロン・メイデン』 リリース特別インタビュー!



 エマーソン・レイク・アンド・パーマーの『展覧会の絵』や、ディープ・パープルの『ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』の例があるように、ロックとクラシックは相性が非常に良いことで知られる。しかし、逆にクラシックのミュージシャンがロック、中でも激しい曲調のヘヴィメタルをカバーする例は非常に稀だ。そんな2つを見事1つにまとめ上げた独自の音楽性で今話題なのが、オランダ人ギタリストのトーマス・ズァイスンである。彼は、9歳でベルギー・ベーファレン音楽院に入学。11歳でクラシック・ギターを始め、学校で様々なクラシックの素養を身に付けていった英才。そんなトーマスが10代の頃、クラシックと同じように魅了されたのが、ザ・オフスプリング、ディープ・パープル、アイアン・メイデンといった、ロック・ミュージックであった。中でも、アイアン・メイデンは特にお気に入りで、彼は2007年にメイデンの曲をクラシック・アレンジし、ユーチューブにアップ。メタルのスピィーディなリフの持ち味を損わず、クラシックの優雅なハーモニーを巧みにミックスした動画はたちまち評判となり、彼のチャンネルは累計150万以上閲覧を記録。世界中で多くのファンを獲得している。そんな彼が、メイデンの楽曲をカバーした『ナイロン・メイデン』をリリース。本作は、ウェブ上で高い人気を博した「撃墜王の孤独」「明日なき戦い」「ザ・クランスマン」といった名曲を収録(なんとメイデンに在籍していたブレイズ・ベイリーがゲスト参加するサプライズも!)。コアなメイデン・ファンから、クラシック・ギター愛好者まで、幅広い層に支持される会心作に仕上がっている。今回の『ナイロン・メイデン』日本盤リリース・タイミングに合わせて、トーマスが本誌のメール・インタビューに応じ、ナイロン・メイデン・プロジェクトや、自身の音楽性について語ってくれた!

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クラシックには何かフレッシュなものが必要

 あなたのバイオグラフィを教えてください。
 88年4月25日にベルギーのアントワープで生まれて、今年で25歳になる。ギターのレッスンを始めたのは11歳の頃で、15歳の時により真剣に打ち込むようになった。祖父と父はベルギーの有名な作曲家で、父はギター製作家でもあったから、いつも家に彼のギター達が転がっていた。僕が音楽に興味を持つことは、とても自然なことだったのさ。
 クラシック音楽に興味を持ったきっかけは?
 家族の影響だね。僕がレゴで遊ぶような小さい頃から、家ではいつもクラシック音楽が流れていたから。
 クラシックからロックを含め、どういった音楽家に影響を受けましたか?
 クラシックはフランスの作曲家、ガブリエル・フォーレだね。彼をきっかけにクラシックを聴き始めたんだ。クラシック・ギタリストだとジョン・ウィリアムスとペペ・ロメロ。ロックに興味を持ったのは14歳の頃。当時、僕はスケボー少年だったから、自然にオフスプリングを聴くようになったんだ。ある時、友人が「このリフかっこ良いだろう?」と、アイアン・メイデンの「パワー・スレイブ」を弾いてくれてね。それを見て“うわっ、カッコ良い!”と衝撃を受けたよ。今思えば彼の意見は正しかったよ。メイデンは、僕の音楽人生にとても大きな影響を与えたわけだからね。ディープ・パープル、ドリーム・シアター、ハロウィン、エドガイ、ブルース・ディッキンソンも大好きだね。
 9歳の時、ベルギーのベーフェレン音楽院に入学し、音楽理論とクラシック・ギターを学んだそうですが、なぜ本格的にクラシック・ギターを習おうと?
 9歳で入学し、11歳になった時にクラシック・ギターのレッスンを始めたんだ。父がクラシック・ギターを弾いていた影響だね。 
 音楽院ではどんな科目を学んだのですか? 『ナイロン・メイデン』で特に素晴しいと思ったのは、名曲に新しい息吹をもたらしているあなたの卓越したアレンジ能力です。 
 ありがとう! 音楽院では理論と歴史、あと和声を勉強したんだ。理論的な理解を深めたことは、君が言うように異なったスタイルの音楽にアプローチするのを助けてくれた。
 その後、エレクトリック・ギターを始めるわけですが、そのきっかけは? 
 何と言っても、オフスプリングとアイアン・メイデンだね! 高校の頃は色々なバンドを掛け持ちしていて、いかに“ロック・ギターが自由で楽しいか?”を知ったんだ。
 その後、アントワープ芸術学校に入学し、4年間フラメンコ、ラテン、ブラジリアンなどの音楽を学んだそうですね。
 クラシック・ギター科を専攻して、しばらくしてワールド・ミュージック科に移ったんだ。そこで、フラメンコやラテン、サンバやボサ・ノバみたいなブラジリアン音楽を勉強した。アンサンブルの授業は色々な楽器奏者と一緒に演奏できて楽しかったけど、クラシック・ギターを専攻した頃より自分のスキルが上がってないように感じてね。ソロ・ギターを演奏する機会も少なくなっていたから、またクラシック・ギター科に戻ったんだ。
  07年から、ユーチューブでロックをクラシックにアレンジした動画をアップし始めましたがきっかけは?
 最初は、僕の持っているナイロン・ギターのテスト動画をアップするためだった。で、 “大好きなメイデンの曲をカバーしたらおもしろいなと思って、「ウェイステッド・イヤーズ」をプレイしたんだ。そしたら、思った以上に沢山の閲覧者がポジティヴなコメントを寄せてくれてね。とても驚いたよ。彼らが「もっと他のレパートリーも聴きたい!」ってコメントしてくれたから、「ウェイスティング・ラヴ」と「撃墜王の孤独」をリアレンジしてアップしたんだ。動画をアップしていくうちに、次第にフォローするファンが増えていってね。その時、“皆ロックの名曲をクラシック・ギターでアレンジしたアプローチを受け入れてくれるんだな!”って強く感じたのさ。大好きなメイデンのカバー・レパートリーで1枚のアルバムを作ったらおもしろいなって。それがナイロン・メイデンなのさ!
 なぜロックの名曲をクラシック・ギター・アレンジでプレイしようと?
 ロックとクラシックが大好きだから。僕は以前から、クラシック音楽には“何かフレッシュで新しいもの”が必要だと感じていてね。だって、クラシック・コンサートには若い10代のキッズ達が観に来ないわけだろ? でも、こういったアプローチだったら、より幅広い層にアピールできるし、クラシックがもっとポピュラーなものになると思うんだ。
 なぜ本プロジェクトでメイデンを中心にカバーしょうと? 
 僕自身がメイデンの大ファンだから。それに、彼らの曲は構成がよく練り込まれているから、クラシックの組曲的なアレンジととても親和性が良いんだよ!
 このプロジェクトでアイアン・メイデンの元シンガー、ブレイズ・ベイリーとのコラボレーションが実現するわけですが、これはどういった経緯で?
 プロジェクト用の曲をレコーディングしていた時、ブレイズがアントワープでショウをしてね。たまたま会場が家の近所だったからライブを観に行って、彼に「今こういうプロジェクトをしているんです。もしよかったらゲストで参加してくれませんか?」と頼んだんだ。彼が実際に僕の動画を見て気に入ってくれて、一緒にホーランドにあるスタジオで1日掛けて曲をセッションすることになったんだ。それが「ザ・クランスマン」なんだけど、とてもクールな仕上がりでとても満足している。セッションが終わってしばらくしたら、彼が「新しいアルバムに参加してくれないか?」と誘ってくれてね。彼のレコーディングとツアーに参加することになったんだよ。
 『ナイロン・メイデン』には「撃墜王の孤独」「明日なき戦い」「ザ・クランスマン」といった人気ナンバーが収録されていますね。 
 「撃墜王の孤独」は、アルバムの中でも一番早く難易度の高いテクニックが入っているから良いチャレンジになった。彼らも最も有名な曲の1つ「明日なき戦い」は、絶対ミスせずメロディが弾けるほど馴染んでいる曲から、曲の雰囲気を壊さずプレイできたと思う。「ザ・クランスマン」は、ブレイズがゲストで参加してくれるから彼が在籍していた時代のメイデン・ナンバーをリアレンジしたんだけど、正にベストなチョイスだったと思う。


 どの楽曲も“あなたらしさ”が光るアレンジが秀逸ですが、ロックをクラシックにアレンジするためのコツは?
 気に入ってくれて嬉しいよ! 僕の意見だけど“オリジナルの雰囲気をいかに生かすか?”がポイントになるね。今回のアルバムの収録曲は、どれもキーとテンポを原曲に合わせているんだ。アコースティック・アレンジだからといって、無理にテンポを遅くする必要はないんだよ。だって、メタル・ミュージックを演奏するわけだからね。それに遅くすると、リフが上手くワークしなくなって曲の勢いがなくなってしまう。アレンジのテンポを定めたら、次にオリジナルのメロディ・ラインを憶えて、その下にあるコードとリフといたパートを再構成していく。メタルって、コード感を決定する3度を省いた1度と5度のパワーコードで構成されているよね? だから、アレンジの際にメロディに合わせたコードのハーモニー付けが、曲の世界観にとても大きな影響を与えるんだ。そこの趣旨択一は重要だね。ロック系ギタリストはピックで演奏するけど、僕は5本の指にある爪を使ってプレイする。だから、5枚のピックを使って5つの音が操れるんだ。これは、ハーモニーを付ける際に、とても良いアドバンテージだと思う。
 レコーディングの際に、美しいギタートーンを録るためにどんな工夫をしましたか?
 レコーディングは、僕のホーム・スタジオと、アルヘンハイムのエッジティップ・スタジオで行ったんだ。ギターの音は、ロードのコンデンサー・マイクで録ったね。“良い音響効果を持つ場所に良いマイクを立てること”を意識するのがコツさ。凄くベーシックなんだけど、アコースティック・ギターのような繊細な楽器ではその影響が如実に出るんだ。ギター録りの後に、ラウル・ゾェーネケンという腕利きのエンジニアが、アナログのエフェクトを使って最終調整してくれた。より温かみのあるサウンドを作るため、ロジックのVCCプラグインも一緒に使っていたようだね。
 ブレイズ・ベイリーの他に、アンネ・バッカー(vn)、トニー・ニュートン(b)、ナサニエル・ターケマ(ds)、ティネカ・ローズブーム(vo)という、縁のあるミュージシャン達が参加していますね。
 ナサニエルとはユーチューブで知り合ってね。とても腕の良いドラマーで、普通両足を使って出す早いパッセージのバスドラを片足でできるんだよ。だから、彼と一緒に「死の舞踏」と「ザ・タリスマン」をプレイしたら面白いと思ったんだ。「死の舞踏」は、ソロ・ギターが長くて僕一人だと持て余す部分があったけど、一緒に演奏したことで曲に躍動感が生まれたね。アンネとティネカは音楽院時代の友人なんだ。アンネは「ウェイスティング・ラヴ」で美しいヴァイオリンをプレイしてくれた。ティネカは、ブレットと「ザ・クランスマン」を録っていた時に、エンジニアのラウルが「このメロディにコーラスを入れたらきっと凄いことになるぞ!」ってコメントしてね。偶然スタジオの近所に住んでいた彼女に連絡して来てもらい、一緒にコーラス・パートを作ったんだよ。トニーは、ブレイズの『キング・オブ・メタル』のミキシングが行われたスティーヴ・ハリスのバーンヤード・スタジオで知り合ったんだ。彼はメイデンのエンジニアを担当していて、ヴードゥ・シックスというバンドでベースをプレイしている。彼に「ザ・タリスマン」でベースを弾いてもらったけど、彼らしいプレイで気に入っているよ。
 ボーナス・トラックに「オペラ座の怪人」と「誇り高き戦い」が収録されていますね。
 「誇り高き戦い」は、僕のシングル盤『ジ・イーヴル・ザット・メン・ドゥ』のB面に収録されていたものでピッタリだと思ったんだ。「オペラ座の怪人」は、日本盤をリリースするキングレコードから「日本でとても人気のある曲だから、ぜひアレンジしてほしい!」と打診されてね。曲の良さを殺さず上手くカバーするのは大変だったけど、やりがいがあった。仕上がりにとても満足しているよ!
 本作で特に思い入れのある楽曲は?
 どれも好きだけど、「レイン・メーカー」「ブラッド・ブラザーズ」「死の舞踏」「ザ・タリスマン」がそうだね。これらは、メイデンがトリプル・ギター編成になった、00年『ブレイヴ・ニュー・ワールド』以降の楽曲なんだ。彼らのギター・ハーモニーが最高にクールで、ヤニック・ガーズのプレイが特にお気に入りだね。曲をアレンジしていた時は、パコ・デルシアやヴィセンテ・アミーゴといった、フラメンコの名手達からインスピレーションを受けていたね。ヴィセンテの新作『ティエラ』は言葉にできない程に美しいよ!
 メインギターを教えて下さい。
 レコーディングでは、ベルギーのギター製作家、ギュスターブ・デン・アンテレッカーが作ってくれたギターをメインで使った。ライブでは、エンドースしているギュスターブ・ギターのジェイド-NYを使う。これは、シャドウ・ステレオ・プリアンプ内蔵の特別なモデルなんだ。ライブでは、他にマルティネスMSCギターも使っているよ。
 今後の展開についてお訊かせください。 
 今アルバムのプロモーションでヨーロッパをツアーしているんだ。ヨーロッパの後は、ドバイ、オーストラリア、ブラジルに行って、夏には世界中のギター・フェスティバルに出演する予定だよ。今回のツアーが終わったら、さっそく次のアルバム制作に取り掛かれたらと思っている。大好きなディープ・パープルなんかをカバーしたら興味深いものになるだろうな。他に、僕のウェブ(http://www.thomaszwijsen.com)で、僕のアレンジメントしたタブ譜を使って、曲のレッスンもしたいなと考えている。
 あなたの演奏を日本で聴けるのを楽しみにしています。
 皆が『ナイロン・メイデン』と、今回のインタビューを楽しんでくれれば嬉しいな。アジア・ツアーする時は、ぜひ日本に行ってプレイしたいから楽しみにしていてほしい。どうもありがとう!
Interview by TAKAHIRO HOSOE
Special Tanks for KING RECORD


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トーマス・ズァイスン
『ナイロン・メイデン』CD
KICP1657 2,600円