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最新作にして最高傑作『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』に迫る!

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4月2日(火)発売のPlayer5月号では、8thアルバム『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』をリリースしたばかりの髭にインタビュー! 各曲のソングライティングや機材関係の話は本誌を要チェックなのですが、ここでは髭の2012年とデビュー10周年についてのお話を伺います。傑作『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』が如何にして生まれたのか!? また、編成を変えながらも髭が髭であり続ける所以も垣間見えるテキストになっております!




 髭というバンドのここ数年の流れとして、“アルバムを発表→リリース・ツアー→対バンや独立したワンマン・ライブ→時期によっては夏フェス出演→アルバムとは独立した全国ツアーで新曲披露→アルバム発表”というのがありましたよね。ただ昨年、2012年はイレギュラーな1年になっていて。
須藤:そうですね。『それではみなさん〜』のリリース・ツアーが終わりへ近付くにつれ、“じゃあ、次は何をやるんだ”ってモードになったんですよ。もちろん、今のメンバーであれば『それではみなさん〜』のパート2のようなアルバムは作れるだろうけど、“果たしてそれに意味があるのか?”と感じていて。ちょうどGATALIとしてソロの話が浮上したこともあって、2012年はインプット、吸収の1年にしたいなって。
 そういう須藤さんのGATALIに対する思いは昨年インタビュー(http://ymmplayer.seesaa.net/article/293535876.html)で伺いましたが、斉藤さんと宮川さんによるBENTMILLにもそういう狙いがあったのでしょうか?
斉藤:いやあ、申し訳ないほどに無かったですね(笑)。
宮川:あれはサードストーン(髭の所属事務所。3rd Stone From The Sun)の社長が、去年の秋にリリースを控えた所属バンドを集めたライブイベントを9月に下北沢のシェルターでやりたいと。ついては“お前ら2人でなんかやってくれないか”っていう(笑)。
須藤:衝動や創作意欲有りきじゃなくて、発注有りきで生まれたユニットなんだよね(笑)。
宮川:でも実は夏前くらいから斉藤さんと2人で少し曲は作っていて。“2人でなんかやれたらいいね”って話は漠然としてたんですよ。
斉藤:そうそう。それこそ須藤のGATALIが本格的にアルバムを作り始めていた時期で。僕としても、その間に何もしないって選択肢は無かったんですよね。で、髭用とかそういうのは考えずに自由に曲を作っていて。そしたら期せずしてきっかけが舞い込んできたという。やっぱり…特に僕は締め切りが設けられていないと火が着きにくいので、かえって好都合というか。まだ1回しかライブは出来ていませんけど、1人でじっくりと音楽を作り上げるという、髭とは違った制作は面白かったですね。

 斉藤さん、宮川さんは髭の中ではデモを作り込むタイプですよね。BENTMILLでの制作はイーブンの関係で?
宮川:いや、僕が大体のネタを作って、練って。で、斉藤さんに渡してから…暫らく待つ(笑)。
斉藤:結構イライラさせてしまったと思います(笑)。本当にデータのやり取りで、お互いが色を付けて投げ返す、みたいな制作過程でしたね。ただ作り込んだは良いけど、ライブでどうするかっていう話になって。
宮川:制作がギリギリだったので、ライブの前にリハに入ったのが当日の1週間前くらいですかね。
須藤:えっ、GATALIより呑気なスケジュールだね(笑)。
宮川:ただスタジオでの2人は結構焦っていて。“どこに楽器の生音入れればいいんだろう”って。PCから曲を流して、2人が棒立ちってわけにもいかないので。

 キャラクター、音楽的にもCHEMICAL BROTHERSやUNDERWORLDのような見せ方は出来ないですもんね。
斉藤:初スタジオは2人とも1時間くらい熟考の時間がありましたからね(笑)。そこから大きく曲も書き換えたり。
 須藤さんは制作途中の音を聴いたりは?
須藤:やるって話はみんなで呑んでいるときに聞いてたけど、“そりゃ楽しそうだね”ってほろ酔い気分で流してて。でも大分してから“こんなん作ってるんだよ”って少し聴かせてもらって。そのときに髭とはまったく違うことをやろうとしてるんだなって思ったし、単純にカッコ良いなって。
 ライブは観に行かなかったんですよね。
須藤:うん、その日は凄く暇だったけどね! なんなら普段の休みよりすることが無かったくらい(笑)! でもね、本当に髭とは別の、斉藤祐樹と宮川トモユキっていう2人の音楽家によるユニットだから。お客さんの中には、多分髭のファンの人もいたかも知れないけど、そこは切り離して聴いて欲しいと思ったんだよね、BENTMILLとしての音楽を。だから、その空間に髭を連想させる要素はあるべきじゃないなって。気を使って行かなかったんです、本当だよ(笑)。
斉藤:あ、ありがとう(笑)。でも本当にバンドとは違う表現方法にチャレンジしたいって気持ちが強くて。いつか来る髭の制作の為にも、僕も少し旅をしてみようかなってのが2012年の夏から冬でしたね。

 これまでの髭は空気が停滞したとき、外部から人を呼び込むことで風通しを良くしてきたわけじゃないですか。それが今回は髭のメンバーが外へ飛び出し、外部の空気を持って帰ることで新しい風を吹かせようとした…。
須藤:うんうん、まさにそういうことです。
 だからこそ、年末のCOUNTDOWN JAPAN12/13からサポート・ドラマーに佐藤謙介(踊ってばかりの国)さんを迎え入れたことは衝撃、ある意味ショッキングな出来事で…。
須藤:…GATALIのツアーが終わって、11月の初旬ですね。本格的に髭のアルバムのことを考えたときに、メンバー全員でお酒を呑みながら“次のアルバムはどうしようか”って話をする機会が多くて。今回はそうやってスタジオに入るよりも前に会話を大事にしている時期があって。みんなで和気あいあいと語りながら、僕の中ではモヤモヤしていることがあって。
 それがドラマーのことだった…?
須藤:髭の制作に対する姿勢をもう一度見直す時期に来てるんじゃないかなって。ここまでやってきて…と言うかここまでやってきたからこそ。フィリポと康一くんはとても個性的なドラマーだけど、その個性を殺さないようにアレンジやテンポを2人に寄せて組んでいくことはこれまでにもあって。それはバンドの醍醐味って言い方も出来るんだけど、GATALIのツアーで伊藤大地と演奏したのが大きかったですね。“こんなにスムーズにいくもんなのか”って驚きだったし。楽というのはもちろん、楽しかったし、凄く創作的なやり取りが出来たし…。やっぱり康一くんとフィリポは長い付き合いだし、当然仲も良いんだけど、やっぱり音楽に関してはシビアにいきたいなって。
 これまでにも『PEANUTS FOREVER』にはアナログフィッシュの州一郎さんが参加したり、『サンシャイン』にはユニコーンの川西さんやRIZEの金子さんが参加して乗り切ってましたよね。そういう段階ではなかったと。
須藤:そうですね。ポイント毎に、あくまでも俺たちが楽しいと思えることを前提に、色んなトリッキーな方法で乗り越えてきたけど。だから今回は結構勇気のいる決断でしたね。
 アイゴンさんの加入のときとはまったく意味合いが違いますよね。
須藤:もう全然違うよね。まず2人が最初に思うかも知れないのは“俺たちって髭に必要あるの?”っていう気持ち。でもね、康一くんとフィリポに伝えるときは敢えて淡々と、非情にとられるかも知れないくらい“誰がなんて言おうと俺はドラマーを入れたい”って言って。そこでやっぱり僕が迷いを出すとメンバー全員が迷ってしまうし、かと言ってヘラヘラと笑いながらノリで伝えるのは本当に2人対して一番失礼な態度だし。“辞めてやる”って答えが返ってきても受け入れるつもりでしたけど、最初に“辞めないで欲しい”とはやっぱり伝えましたよね。しっかりと受け入れくれて、かつ2人にしか出来ないポジションで今回のアルバムでも活躍してくれているのは本当に有り難いです。
 最終的に謙介さんに白羽の矢を立てたのは? 髭のキャリアと交友関係で言えば、かなり選択肢はありましたよね。
須藤:そのサポート・ドラムの話が出たのが11月の中旬。で、アルバムは2月の中旬頃には仕上げないといけないと(笑)。だから大きく要素をふたつ挙げると飲み込みの早さ、それと東京在住という点。あとは彼が在籍している踊ってばかりの国がちょうど休止期間だったことも大きいかな。実はキングブラザーズのタイチにも声はかけていて…。
 ああ、確かにフィリポさんと並んだときの画も含めて面白そうですね(笑)。
須藤:だよね(笑)。僕も1人で大阪まで行って、タイチと一緒にセッションをしたり、逆にタイチを東京のスタジオに招いてセッションもしたり。感触も良かったし、タイチも喜んでくれてはいたんだけど、どうしても大阪と東京の距離、あとはキングブラザーズの活動が今年忙しくなるっていうのもあって。バンドとして、康一くんとフィリポに大きな決断をしてもらって手伝ってもらうドラマーだからこそ、中途半端にはしたくなかったんです。そのときに謙介の名前が周りから挙がって。それで一度スタジオに入ったら驚くべき勘の良さで。若さなんですかね(笑)。
 踊ってばかりの国はボーカルの下津さんも含めて、髭のことが好きなメンバーの多いバンドですし。その点も大きいんじゃないですかね。
宮川:あとは漠然とした話ですけど空気感って言うんですかね。初めてスタジオに入った日も全然そんな気がしなくて。なんか大分前からこの7人でやってたんじゃないかって気になるんですよね。あれだけ年下なのにお互い気を使うこともなく。リズム隊を担う上でも非常にスムーズで。“ここはこうして欲しい”ってお願いしても直ぐに修正してくれて。同時にフィリポとコテイスイの個性も改めて分かったりして。
須藤:いかにレコーディングの現場で2人が大きな存在かっていうのはね、僕も今回凄く感じたところで。恐らくアルバムとしては、2人がいなくても音楽的に近いものは作れたと思うんです。ただ、そこに辿り着くまでの過程は殺伐としたものになったかも知れないし、彼らがいることで場の空気がブライトになる。そういう力は僕にもアイゴンさんにも、斉藤くんにも宮川くんにも無いもので。




 そういうフラットな空気というのは、今回のアルバムで凄く出ていますよね。
斉藤:なんかスタジオに入る前からそういう雰囲気だったよね?
須藤:そうそう、みんなで最初にスタジオへ入った時、“取り敢えず好きなことをやってみよう”って話になって。実は僕自身がGATALIからの切り替えが上手くいっていない時期があって、個人的に迷走していたというか。アイゴンさんに“今回は僕が一切参加しないアルバムってどうでしょう?”って結構真面目に相談していて。
宮川:してたしてた(笑)。
須藤:もちろん、それをアイゴンさんがOKするはずが無くて(笑)。それから暫くスタジオには入らない時期を設けて。
宮川:その頃はこの3人で集まる時期が多かったよね。
須藤:うん。そこで斉藤くんと宮川くんのデモを聴かせてもらったり。斉藤くんが最近ハマっているらしい音楽を聴かされたり(笑)。
斉藤:(笑)。
宮川:須藤はすぐに斉藤さん家の冷蔵庫開けてビール呑んでたよね。なぜか斉藤さんがおかわりのビールやツマミを運んできて(笑)。
斉藤:単純に楽しくて仕方なかったんですよね。友達が家に来てくれて、それでダラダラと好きな音楽を聴いているっていう。凄く原始的というか…。

 学生的ですよね(笑)。
斉藤:そういう空間がスタジオで試行錯誤する何時間よりも有意義なことってあるんですよね。あの時間がその後のスタジオワーク、特に須藤の作曲ラッシュにも少なからず繋がっているのかなとも思っていて。なんか原点というか、“そもそも俺らはどういうところから始まって、どういうモードでバンドやってたっけ?”というポイントを思い出した感じがあって。
 その結果、『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』はデビュー10周年に相応しい作品になっているように感じていて。あらゆる時代の髭(HiGE)、HiGE、髭がこのアルバムにはいるなと。それが当の本人たちはまったくの無意識で、フラットに挑んだ結果というのが更に素晴らしいと思うんです。
須藤:そうですね。そんなインディーズ・デビューの年なんて、俺らも忘れていたのに周りが良く覚えていたなと(笑)。
 ただ、この10年は髭のバンド内やメンバー個人として、同期のバンドや国内のシーン…様々が移り変わっていく中で、メンバーが欠けるどころか増えてもなお髭で在り続けた感慨というか…。
斉藤:なんだろう…正直、情って部分も大きいですね(笑)。そういうと馴れ合いのように受け取られてしまうかも知れないけど、人間としてウマが合うんだから仕様がないというか。だからステージに出たときに各々の個性を引き出し易い部分もあって。特に去年は髭から離れている時間も多かった分、客観的に考える時間もあって。音楽性や演奏技術を差し引いても集まってしまうメンバーだと思ってるんですよね。未だに全員で呑んで、取るに足らない話をして、どうしようもなく酔っぱらって各々が家に帰る…そういうのって10年以上変わらないんですよ。そういうのを敢えて避けるバンドもますけど、髭はそれが強みになってるし、これからも変わらないんじゃないかな。
須藤:でも僕は変わりましたよ。デビューした頃なんて、この世に存在するすべてのものをコケにしてやろうって思ってましたもん(笑)。
斉藤&宮川:(笑)。
須藤:でもそういう考えは吹っ飛びましたね。その頃の毒自体は僕の中には未だに内包されているんですよ、きっと。斜に構えているところやシニカルな部分は本質的に。ただ、その毒の吐き出し方が変わったというか…。人や事柄を許容した上で効果的かつ優しく毒を盛りたい…。それが20代から30代への人間的変化なのかは分からないですけど、明らかにターニングポイントは『D.I.Y.H.i.G.E.』の後、『サンシャイン』の前ですね。そういう優しさと毒のバランス、そこのビルドアップの集大成が『QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!』だと個人的には思っていて。

 確かに須藤さんの捻くれた部分が愛らしい形で出てますよね。
須藤:うん。なんかね、尖っていようとは思ってなくて。ファッション的、表面的に怖い人じゃなくて、一見はフォーマルなのにチラッとラジカルな本質が見えるような…それこそが真を突くと思うんですよ。ひとりの人間としても、髭のメンバーとしても、これからはそうありたいかな。
 宮川さんはいかがでしょう?
宮川:いざ訊かれないとなかなか考えないことなので、色々と思い出していたんですけど確かに色々とありましたよね。結成当時は4人編成のごく普通のバンドだったよなって(笑)。ただ当時から今も考えているのは極々シンプルなことで。“楽しくやりたいな”ってことだけなんですよね。何も考えてないのかよって思われるかも知れないですけど、この10年間で同期、先輩、後輩に関わらず解散や形を変えていくバンドも沢山見てきたし…。そんな中で未だに“楽しい”が動機で続けてこれたんですよね。当然、ポイントポイントでシビアにならざるを得ない局面はこれからも出てくるんでしょうけど…。
 10年後、“20年を振り返って”の質問で同じ答えが返ってくる日を楽しみにしています。その頃は遂にツインベースになってたら面白いですが。
須藤:流石にそのアイデアは上がったこともないんですよ(笑)。
宮川:時々、俺だけ1人なのが寂しくなるときもありますけどね。たまに他のバンドのベーシストが「髭に加入してやっても良いよ」って冗談で言ってきますけどね(笑)。まあ、気軽に冗談でもそんなこと言われる空気が髭らしさかなとも思いますけど。

Interview by KENTA TOGAWA

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QUEENS, DANKE SCHÖN PAPA!
日本コロムビア 3月27日
初回盤(CD+DVD) COZP-761〜2 3,360円
通常盤(CD) COCP-37898 2,940円