暗転と同時に鳴り響いたのはThe Velvet Undergroundの「All Tomorrow's Parties」。まるでこれから始まる狂宴を示唆するかのようなオープニングSEだ。中盤のサイケデリックなギターソロに入ったタイミングで丸山康太(g)、山中治雄(b)、菅大智(ds)の3人がステージイン。退廃的なヴェルヴェッツの世界観を劈くような爆音で、どこまでも凶暴かつ美しいロックンロールは始まった。
昨年12月にリリースされた1stアルバム『the dresscodes』を引っ提げての全国ツアー。昨年はゲリラ的なライブやイベント出演、「Trash」のリリース前に行われたショート・ツアー『Before The Beginning』に関してもキャパ100〜200人のライブ・ハウス3ヶ所であった為、今回のツアーで初めてドレスコーズを目撃する方も多いだろう。この日の渋谷O-WEST公演は全11公演の2日目。それゆえセットリストの記載は避けるものの、言わずもがな『the dresscodes』収録曲を軸としたメニューである。しかしながら、各曲のモノラル/ステレオ・ミックスのバランスも考慮したアルバムの収録順とは大きく異なり、ライブならではの流れが組まれていた(特にこの日の1曲目は意外だった)。またオリジナルには無いインプロビゼーションも要所に盛り込まれており、丸山のアヴァンギャルドなプレイ・スタイル(ギターをローディにあずけ、ひたすらアンプのつまみをいじってフィードバック・ノイズをコントロールする場面も)と菅の連射可能な大砲とでも呼ぶべきドラミングが楽曲の混沌さを増幅させていく。一方でジャズベースを高い位置に構える山中は極力エフェクターは使用せず、あくまでもアンサンブル全体を意識したプレイ。ピッキングの強弱(「パラードの犬」では一部を除いて親指弾き)やピッキング位置もブリッジ側とネック側を巧みに使い分け起伏を生み出す。菅と共に担うコーラス・ワークも含め、バンドの屋台骨といった冷静さはステージ上でも顕著だ。その盤石さと危険さを併せ持ったアンサンブルの上でステップを踏み、ターンを決め、唯一無二の声で歌い上げる志磨の姿は男の私からしても溜め息が出るほどに艶気がある。つくづくTHE WHOのようなバンドだ。典型的なフォーメーションでありながらも、存在感で言えば全員がフロントマンである。
生まれたての新曲が披露されるのも本ツアーのポイント。序盤に置かれた新曲では志磨もギターをプレイ(「ストレンジ・ピクチャー」や「1954」でもバッキングを担っていた)。昨年のレコーディング期間中に購入したJerry JonesのShorthorn DC2をアンプ直で鳴らしながら、哀切的なメロディに自虐の言葉が乗るミドル・チューン。どこか淡々としたリズムとギターソロが余計に曲中の“僕”を孤独にする。対照的に終盤で披露された新曲は陽性のメロディとキャッチーなリフが際立った即効性の高いナンバーであり、早くも『the dresscodes』の先へ進みつつある4人を感じさせる。
この“インプロの追加”と“新曲の披露”により、CDで再生すればほぼ1時間ジャストで終わるはずのセットリストは1時間半近くにも及んだ。MCに関しても志磨が必要最低限を語るに留まり、至極ストイックなステージ運びであったと言える(こちらに拍手の隙さえも与えないシームレス流れもあった)。その中でもとりわけ印象的だったのは第一声の「はじめまして、ドレスコーズっていいます!」という言葉だった。音源を聴き込み、インタビューも行った人間が言うことではないが、私もこの日初めてドレスコーズというバンドの本質を見た気がする。しかし、これもまだ片鱗に過ぎないのだろう。メンバー自身も昨年、“ツアーをやっていく内に、僕たちもドレスコーズが何なのか分かってくる気がする”と語っていたように、4人も今回のツアーでドレスコーズに感動し、興奮し、驚愕するはずだ。まさしく新人の瑞々しさ、ハングリー精神と熟達した技巧の二律背反を持ち合わせた化け物だ。「Trash」の後半で「まだ足りない、まだ足りない!」と絶叫している志磨の姿に恐ろしさ以上の頼もしさを感じた次第である。
詳細を書けないことが歯がゆくもあるが、現在絶賛展開中の「the dresscodes TOUR 1954」、とにかく万障繰り合わせてでも目撃して頂きたい。数年後、彼らの成長期を生で体感出来たことを誇りにさえ思える日が必ず来るのだから。最後に早足でメンバーの機材も振り返ることにしよう。
丸山のメインギターは黒のレスポール・カスタム。サブも同じくレスポール・カスタムであったが、使用は序盤とアンコールでブラック・ビューティの弦が切れた際のみに留まっていた。ステージ袖には志磨から一昨年の大晦日にプレゼントされたリッケンバッカー330もスタンバイしていた。
山中はジャズベース1本のみであったが、昨年末からメイプル指板のモデルをメインにしているようだ(以前はブラック・ボディ/べっ甲ピックガード、ローズウッド指板のモデル。因みに「Trash」のMVで使用しているジャズベースは菅の私物である)。
菅のドラム・セットはヴィンテージのラディックを組み合わせた1バス、1タム、1フロアのシンプルなセット。キース・ムーンを敬愛している菅ではあるが、もちろんハイハットもセットしており、極めてスタンダードな構成であの驚異的なプレイを実現させている。
写真:松本時代
文責:戸川健太
【the dresscodes TOUR 1954】
1月23日(水) 京都磔磔(終了)
1月24日(木) 渋谷O-WEST(終了)
1月27日(日) 札幌cube garden
2月2日(土) 広島ナミキジャンクション
2月3日(日) 福岡DRUM Be-1
2月9日(土) 仙台darwin
2月10日(日) 新潟CLUB RIVERST
2月16日(土) 梅田QUATTRO
2月17日(日) 高松DIME
2月22日(金) 名古屋QUATTRO
3月8日(金) 日本青年館
the dresscodes(初回限定盤)
COZP-735〜6 12月5日 3,360円
the dresscodes(通常盤)
COCP-37693 12月5日 2,940円
http://the.dresscod.es/