10月2日(火)発売のPlayer11月号では髭のフロントマン・須藤寿によるソロプロジェクト“須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET”のインタビューを掲載! 今年2月の初ライブをレポートするなど(http://ymmplayer.seesaa.net/article/253246084.html)、発足当初から動向を見守っていましたが、9月26日(水)にリリースされる1stアルバム『The Great Escape』がこれまた素晴らしい作品。髭の楽曲で言えば「ダイアリー」の白昼夢感、「サンシャイン」のトリップ感、「Electric」のディープな酩酊感…それらすべてが詰まっているようでいて、そのどれとも異なる須藤寿の世界が堪能できる仕上りになっております。
本誌のインタビューでは発足からのメンバーである長岡亮介(g)とgomes(key)の両名も迎え、ややマニアックな切り口から『The Great Escape』に迫っておりますが、ここでは須藤寿に“GATALI ACOUSTIC SET”の成り立ちとアルバムの概要を伺ってみました! 是非ともPlayer11月号掲載の本誌インタビューと併せてご覧ください!
自己完結するものじゃなくて
やっぱり他者との交わりで音楽が作りたい
まずは基本的なところからお訊かせください。須藤さんが髭以外のアウトプットを設けようと思ったのは?
それはね、ずっと思っていたんですよ。2008年頃からかな。髭とは別のプロジェクト…って言うと少し大袈裟なんだけど、まさしくアウトプットが欲しいとは思っていて。髭で出来ないことは当然あるけど、それを無理に追い求めるとバンド内がギスギスしちゃいますよね。あまりにそれは健康的じゃないし。“髭のボーカル”じゃなくて、“須藤寿”として表現出来ればとは前から考えてたんです。
そういうストレスなり、バンド内の閉塞した空気は、今までだと外部から髭に新たな風を吹かすことで解決してきましたよね。
そうですね。だからソロプロジェクトとして自分の中で明確になったのは長岡とゴメスに会ってから。…だから2011年、本当に去年の話ですよ!
着想からがメチャクチャ早いんですね(笑)。
実際に長岡と初めて会ったのはもっと前ですけどね。髭のリキッドルームでのライブ(08年7月)を観に来てくれて。勿論僕は東京事変の浮雲として知ってはいたけど、そこで初めて挨拶したんですよね。それから暫くして、去年ですね。僕と長岡、gomesの3人で飲んで。その時に確信したんですよ、“この2人となら、俺がやりたいことを任せられるな”って。
そもそも3人で飲もうと須藤さんから提案した時点で“この2人とやりたい”って思いがあったんじゃないですか?
んっとね、長岡と知り合ってからも、取り立てて場を設けて酒を飲むっていう機会も無くて。gomesと最初に会ったの自体も去年かな。震災の直後、凄くACのCMが流れていた時期があったじゃないですか。そのときにFAB(gomesがボーカルを務めるバンド。現在は活動休止中)の「魔法のように」が使用されているCMがあって。そのとき“この歌、メチャクチャ良いな”と感動してしまって。その話を事務所の社長に話をしたら、“ボーカルの子、知り合いだよ。次の食事の機会でもあれば呼んであげるよ”って思いもよらず話が進んで。
運命的ですね。
で、“その場に長岡がいたら素敵だな”と思って。それから暫くしない内に下北沢で3人で飲んだんですよ。その席で漠然と確信してしまったと言うか。
そして、年明けにプロジェクト発足のアナウンス、2月には南青山CAYにて初の“須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET”によるライブが行われたわけです。あの時は大半が髭のカバーと語り(MC)でしたが、オリジナルアルバムを作ろうという話は進んでいたんですか?
それはメチャクチャ遅かったですよ。4月くらいだったかな? スタッフさんから“須藤くん、そろそろ本気でソロアルバム作ってみても良いんじゃないの?”って話が上がって。僕としてもやりたい気持ちはあったんだけど、“須藤寿”という個人名義より“2月にライブをやったメンバーも含めた形でやりたいな”と思っていて。もちろん僕の名前を打ち出して旗頭になりつつも、“長岡のギターとgomesの鍵盤じゃないと嫌だな”っていうのは明確でしたね。だから自分のソロを作るというよりも、僕を軸にした新たなプロジェクトって意味だったら面白いなって。やっぱり自己完結するものじゃなくて、他者との交わりで音楽が作りたいなってのは大前提にありましたね。それは昔からの考えで、ギター1本の弾き語りに抵抗があるのも、そういう理由だと思いますし。
今回はすべてGATALI用に書き下ろした曲ばかりですか?
僕は引き出しの中から引っ張ってきた曲も1、2曲ありますね。とは言っても完成形と言えるほどのものではなくて、歌詞なんてもちろん無かったし。“そう言えばあのフレーズは使えそうだな”ってパーツを持って来たくらいのイメージです。gomesは僕が歌うことを意識して一から作ってくれましたね。だってgomesが個人でやっている曲やFABの曲を聴いて貰えれば分かりますよ。「ハーイ!ゴメス!」みたいな能天気に明るい曲はひとつも無いもん(笑)。
当初は2月のライブと同様、髭のカバーも収録させるのかなと思っていました。
最初は僕もそういう気持ちでいたんですよ。寧ろGATALIのオリジナル曲を書くつもりは全然無くて。スケジュール的にそんな余裕も無いと思っていたから、はっぴいえんどやフォーククルセイダーズ、日本の音楽史に残る名曲と髭のセルフカバーをやればいいかなってくらいの気持ちだったんですよ。
はいはい(笑)。
“だったらこのタイトなスケジュールでも出来るかな”と思って。純粋にみんなでアレンジメントしながら楽しもうってくらいの気持ちだったんですよ。それが徐々に雲行きが変わってきて。ある日、ディレクターさんが“4曲くらいはオリジナルが欲しいよね”って。今思うと、その頃から不穏なものが忍び寄ってたんですよ(笑)。“まあ4曲くらいなら大丈夫か”と快諾して。で、次にディレクターさんに会ったときは“4曲じゃ中途半端かぁ。全部オリジナルだな。なっ!”と(笑)。
巧みに導かれたわけですね。
でもその頃には長岡とgomesとの繋がりも深いものになっていたし、曲は全然出来てなかったけど“まあ今の3人なら何とかなるか”って思えたんですよ。
“バナナ録り忘れ事件”は
本当に衝撃的でしたね(笑)
そこから本格的に楽曲制作ですが、須藤さんはどのようにデモの提示を?
デモもなにも、ただその場で弾き語るだけって感じですね。2人に会うときに“こういう曲だよ”って歌って示すだけで、ギターを持って行ったのはその日だけですね。『それではみなさん良い旅を!』と同様、今回も僕は曲を書いて歌っただけです。
ギターと鍵盤のアレンジ面では?
完全に任せっきりですね。本当に2人がイニシアチブを取ってましたよ。プレイに関しても要求や注文は付けてないし、本当に自由にやってくださいって感じでした。終いには2人からコーラスの指導も受けたり。「太陽の季節」は本当に酷かったよね。“ここのコーラス歌って”ってお願いされても不慣れだから全然分からなくて。どうしても主メロを歌っちゃうんですよ。“あんよが上手”みたいに赤ちゃんの歩く練習みたいな感じで教えてもらいました。2人の親切さと愛でもってなんとか出来るようになりましたね(笑)。
長岡さんもペトロールズで“ライブアルバム”と言うよりは“ライブレコーディング”と呼ぶべき『chapter419』をリリースしたばかりなわけで。そういう空気感やムードに重きを置くところは、須藤さんのモードと通じるんでしようね。
長岡は本当にフリースタイルなギタリストですね。ペトの場合でも音源を聴いてライブへ行くと、本当にそのときの感情に任せたフレーズになっているから聴いている側からしても凄く気持ちが良いんですよ。正解や不正解じゃなくて、そのときの空気をキャッチして音やプレイに反映させる人だから、とても波長が合うんです。レコーディングでさえ同じフレーズは2度と弾かなかったですからね(笑)。
今回ドラムは全部打ち込みなのでしょうか?
当初は後で生ドラムに替えようって思ってたんですよ。はじめにレコーディングしたのは1曲目の「あそびいこう」だったんですけど、あの曲は本当に仮のつもりでリズムを入れていて。でも短い制作スケジュールの中、みんなでテンション高く楽しんで作っているうちに、良く考えればベースやドラムを後から挿げ替えるのは相当至難の業だなってことに気がついて。要は土台なわけですから。そこに色んなものを乗せた後で、その土台を変えるのはすべてが総崩れになる危険性も孕んでいるわけですよ。僕らもその打ち込みのリズムに対してグルーヴを重ねていったわけですし。過程や空気感を共有していないドラマーを最後に呼ぶより、打ち込みは打ち込みのグルーヴとして楽しもうって気分にシフトしましたね。
その柔軟性はこのバンドの強みですね。その緩さゆえのハプニングも多そうですが…。
“バナナ録り忘れ事件”は本当に衝撃的でしたね(笑)。「ウィークエンド-Theme From The Great Escape-」をコトリ(コトリンゴ)ちゃんにメインで歌って貰っているんですけど、実際に録りに参加して貰ったら想像以上の素晴らしさだったんです。仁さんがエディットしている間、別室で「いやあ、コトリちゃんの歌は最高だねえ」なんて言いながら和気藹々としていて。その頃には僕の中で大体の曲順は固まっていて、「ウィークエンド」の後は「騒々しいバナナ」って決めていたんですよ。だから「騒々しいバナナ」の冒頭に女性の声で“バナナ”って囁きが欲しいなって思ってて。
セクハラですか(笑)?
いやいや(笑)。だからコトリちゃんに「この後、“バナナ”って一言だけ頂いても良いかな?」ってお願いして。コトリちゃんも笑いながら快諾してくれたわけですよ。そんな中で仁さんから「エディット終わったから皆で聴こうか」とお呼びがかかって。エディット後の歌をみんなで聴いたんですけど、更にコトリちゃんの歌が際立って。僕も含めて全員がテンション上がっちゃって。「いやあ、本当にコトリちゃん最高! ありがとう! じゃあね!」って清々しく別れたの。…それから1時間くらいしてからかな、「“バナナ”って言ってもらってない!」って。
諦めましょうよ(笑)。
ここからが須藤寿ですよ。普通なら我慢しますよ、無しにするか他の女の子にお願いするか。でも絶対にコトリちゃんの“バナナ”じゃないと駄目だったんですよね。
これだけフィーリング重視のレコーディングで、須藤寿の頑ななこだわりが(笑)。
そう。で、「コトリちゃんを呼び戻そう」って俺が言い出して。仁さん含めスタッフさんからは「いやいや、それは有り得ないだろ。バナナ一言だよ」と。ディレクターさんも「それはさすがにお願いし辛いな…」となっちゃって。でも僕が「どうしても、どうしても大事な“バナナ”なんです…!」と粘ったわけですよ。そしたら渋々電話を掛けてくれて。
正気の沙汰じゃないですね(笑)。
今思うとね(笑)。で、「さすがに今日は来れないみたい…」と聞かされて、“まあ、そうだよな…”って残念半分安心半分みたいな気持ちで。そしたら「明日、もう一度来てくれるみたい」って話が続いて。もう震えましたね、ようやくことの重大さに気が付いたと言うか。“俺はバナナ一言の為にコトリンゴを呼ぶのか…”と。本当にコトリちゃんは次の日、“バナナ”と一言だけ言って帰りましたからね。もちろん一発OKでした(笑)。
贅沢な(笑)。
間違いなくコトリンゴ史上最高に贅沢な起用ですよ。本当は鍵盤も弾かずに歌だけで参加ってのも恐縮だったくらいんなんですけど。
(笑)これは最初から女性ボーカルを作った曲ですか?
出来上がってからかな。これは女性に歌って欲しいなって。
この曲に「Theme From Great Escape」のサブタイトルが付いた要因は?
7割方アルバムが仕上がったときからタイトルは『The Great Escape』が浮かんでいて。「ウィークエンド」の歌詞を書き終えたのは本当に最後の最後なんですよ。上手く言葉に出来ないけど、書き終わったときに“この歌詞は僕を取り巻く環境やGreat Escape感を表現している”と感じたんです。
斉藤(祐樹/髭)さんがプログラミングを手掛けていますね。
さっき言った“パーツは昔からあった曲”なんですよ。1年半前に原型を作ったときに、“これは髭じゃないな”って直感して。結局この曲は自分の手元に残ったまま、ずっと消化しきれていない好きな曲だったんですよね。でもアルバムの全体像が見えてきたときに、冒頭から掲げていた“眠っている人を起こさない”っていうテーマにピッタリな曲だなって思ったんですよ。この曲の制作に関しては仁さんも殆ど関わってなくて、僕と斉藤くんの2人きりで詰めていきましたね。斉藤くんの部屋で作り込んだシーケンスをそのまま流し込んでます。
苦手なこと、嫌いなことから逃げてばっかり
楽しいと思えることしかやってないんです
「カーニバル」ラストのピアノとコーラス・パートのみになる部分は?
エンジニアリングを古川(裕/ex.DOPING PANDA)くんにお願いした1曲なんですけど、急遽“ラストにもうひとつエクストラ・メロディを付けよう”って提案が持ち上がって。gomesが即興で弾いたピアノに僕がメロディを乗せました。
「楽しい時間旅行」はオケやシンセのメロディがgomesさん作曲で、言葉(世界各国の都市や名所)の乗せ方は完全に須藤さんですよね。
そう。gomesとしてはシンセで弾いている主メロに対して歌を乗せて欲しかったみたいなんだけど…なんかあそこからはインスピレーションを受けなかったんだよな(笑)。実際にあの部分の歌詞も考えてたんだけど、“どうも違うな”って。それで「gomesごめんね。どうしてもあそこに歌が乗せられなくって。でもコードが変わるところで沢山の地名を語るように乗せることなら出来そうかな…」って。でも本当になんか結果オーライな、奇跡的な交わり方になりましたよね。
一般的な方法論から逸脱していても、結果的に作品としてプラスに繋がってますよね。とことん楽しんだ結果、最高のアルバムが完成する。これは至福ですね。
今回は歌えるやつが歌えるところを歌う。弾ける、弾きたいやつが弾くっていうね。だから誰も無理してない、良い意味で頑張ってない(笑)! まさに“The Great Escape”。苦手なこと、嫌いなことからは逃げてばっかりで、本当に楽しいと思えることしかやってないんです。
ツアーではトリオ編成の他にバンド編成の日程も用意されていますね。ベースにはケイタイモさん、ドラムには伊藤大地さんが参加とこれまた楽しみな面子です。
ケイタくんは直感で“この人だ!”って閃いてましたね。実際に2008年にも一緒にスタジオに入っていた時期もあったんですよ。ドラマーに関しては良いプレイヤーが沢山いるから決めあぐねていたんですよね。で、みんなに相談したときに長岡から伊藤大地の名前が出てきて。僕はSAKEROCKのドラマーって印象が一番強かったんだけど、色んなバンドで演奏していることも教えて貰って。そこで彼がライブで叩いている動画をみんなで観たんですよ。そのときから“相当良いな”とは思ってたんだけど、折角最高のメンバーが揃ってるんだから慎重に決めようと思って。それから何週間後に髭として北海道のフェス“JOIN ALIVE”に参加したんです。それで出番が終わって僕らはススキノのバーに繰り出していて。良い感じに出来上がってきた頃に、後ろから肩をやたらと叩いてくる人がいて。“誰だよ!”と思って振り返ったら「どうも、伊藤大地です」と(笑)。星野源くんのサポートで彼もJOIN ALIVEに参加してたみたいなんだけど、「お、お前が伊藤大地か!」って叫びましたからね、僕。結局、そこで運命的なものを感じて伊藤大地に決定したんです。もうリハも何度かやってますけど最高ですね。
理詰めで曲を書いて、録音して、修正して…。ライブではそれを再現するだけっていうケースも多い中、“須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET”はその場その場の空気を重視したライブを魅せてくれそうですね。
そうですね。だって今日もリハをやったばかりですけど、もう音源とはまったく別のものになってますから。
先日の渋谷WWWで披露された「楽しい時間旅行」もかなりの長尺でしたもんね。
ほんとほんと(笑)。もう全然、そのときそのときによって、その楽曲を一番楽しめるアレンジやプレイスタイルで演奏するべきだと思うんですよ、本来は。もちろん中々そうもいかないバンドは多いと思うけど、僕たちはそれが出来る集まりだと思うので。
9月27日(木)のリリース・パーティーと10月から始まる全国ツアー、楽しみにしています。ありがとうございました!
ありがとうございました!
Interview by KENTA TOGAWA
須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET
The Great Escape
日本コロムビア CD
COCP-37553 9月26日 2,625円
須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET "The Great Escape" PARTY
9/27(木)東京 代官山UNIT(バンド編成・立見)
OPEN 18:00/START 19:00
チケット料金:¥4,300 チケット一般発売:8/18(土)〜
須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET "The Great Escape" TOUR
10/18(木)東京 青山CAY(トリオ編成・自由席)
10/19(金)東京 青山CAY(バンド編成・立見)
OPEN 18:00/START 19:00
チケット料金:¥4,300(税込・ドリンク別・整理番号付) [問]CAY:03-3498-1171
10/26(金)京都 磔磔(トリオ編成・自由席)
10/27(土)心斎橋 Music Club JANUS(バンド編成・立見)
OPEN 18:00/START 19:00
チケット料金:¥4,300(税込・ドリンク別・整理番号付) [問]GREENS:06-6882-1224
11/01(木)名古屋 TOKUZO(トリオ編成・自由席)
11/02(金)名古屋 TOKUZO(バンド編成・立見)
OPEN 18:00/START 19:00
チケット料金:¥4,300(税込・ドリンク別・整理番号付) [問]JAILHOUSE:052-936-6041
2012年9月24日