8月2日(木)発売Player9月号のソフトウェア特集では“THIS IS MY PARTNER 〜ギタリスト愛用の1本を語る!〜”が進行中(※7月2日(月)発売の8月号ではありません)。トレードマークとも呼べるほど愛着のあるギターとの馴れ初め/上手な付き合い方/辿り着いたサウンドメイキングの極意などなど、長年連れ添ったパートナーについて、じっくりとお話を伺っています。ここでは特集用取材の際にお訊きした各アーティストの新作についてのインタビューを随時掲載予定! 渡辺俊美さん(http://ymmplayer.seesaa.net/article/273580789.html)、SISTER JETのワタルS(vo,g)さん(http://ymmplayer.seesaa.net/article/277758869.html)、第3弾は長澤知之さん(http://ymmplayer.seesaa.net/article/277812970.html)に続き、第4弾は敬愛するヤマジカズヒデさんとの対談を行った百々和宏さん(MO’SOME TONEBENDER)!
MO’SOME TONEBENDER「Shining」
『STRUGGLE』という闘争を経て自由になったモーサムは、こんなにも激しく、楽しく、美しい。結成15周年だの百々和宏名義のソロアルバム『窓』を経由してだの…そんなファクターを一切無視するかのように、全曲がバラバラ、それでいて全方位へ振り切れた無敵の13曲。元来、作品毎に嗜好を落とし込んできたバンドではあったが、これほどまでにコンセプト/時流/過去の自らにさえ縛られていないアルバムは類を見ない。この日本のロック史に残る怪作はいかにして完成されたのか? 百々和宏(vo,g)に迫る。
ここまで統合性を意識せず
作ったアルバムも珍しいかな(笑)
「Shining」や「Metaluca」、「ElectBoys」あたりは昨年の春〜夏頃にはライブで披露されていましたよね。前作『STRUGGLE』リリース以降も曲作りは断続的に行われていたのでしょうか?
そうですね。“アルバム作るぞ”って感じではなく、常に曲作りは続けていて。出来たらライブで披露する。で、ライブで披露したら自分たちの手応えやお客さんの反応で見えてくるものもあるし…。それを踏まえてリアレンジ、イントロを倍にしてみたり、構成を変えたりとか。そういうのを繰り返すうちにアルバム1枚分の曲が溜まってきたというか。
前作『STRUGGLE』は全曲通じて殺傷能力の高い音色だったり、シーケンスも重ためにものが多かったですよね。それと比較すると今回の『Strange Utopia Crazy Kitchen』は四方八方に散らかりまくり、迸りまくりの全13曲で。
確かにここまで音色や統合性を意識せずに作ったアルバムも珍しいかなってくらい(笑)。スタジオの作業的には何と言うか…その場のノリでポンポン作っていく感じで。「ElectBoys」はタイミング的に『STRUGGLE』に収録することも出来る時期に完成していたんですけど、『STRUGGLE』は毛色的にシリアス…と言うかアングリーな面が強かったから。今回は制約のないアルバムなので、“何でも入れてやれ!”っていう感じでしたね。
具体的にアルバムとして固める作業に入ったのは?
えっとね。曲が出来て2、3曲まとまってきたらレコーディングっていうのを繰り返していたんですよ。だから今回曲作りも断続的なら録りも断続的に行っていて。集中的なレコーディング期間っていうのが無いんですよ。それが余計にとっ散らかったアルバムにさせたのかも知れない。その時々のムードがそれぞれに反映されていると言うか。言い換えれば、延べ1年半くらいレコーディングしていたような感覚はありますね。定期的にスタジオに入ってレコーディングっていう。だから最初の頃のタームはほとんど覚えてない(笑)。
4月には百々和宏名義で初のソロ作品『窓』もリリースしたわけですが。これも『Strange Utopia Crazy Kitchen』と平行してレコーディングしていたということになりますよね。
ですね、合間合間に。ソロを録り出したのが昨年の11月から今年の3月くらいだったので。
良い意味で『窓』のフィードバックが無かったのは予想外でした。
ゼロですよね(笑)。意識的に遠ざけたわけでもないけど、なんか“やっぱりモーサムはモーサム”って思いがあるし。ただソロと平行していたってのもあると思うんですけど、今回は凄く曲作りや方向性の部分は他のメンバー…主にイサム(藤田勇/g,prog)に任せた部分もあって。極端に言えばレコーディングに参加していない曲もあるくらいですし。
ちなみに今回プリプロなり、デモをバンドで形にしていく作業は水野さんも含めた4人で行ったのでしょうか?
そうですね。今回からドラムは完全に水野(雅昭/support)くんに叩いてもらっていて。レコーディングスタジオをとりあえず押さえて、その中でリハもやりながら、テンションが上がってきたらRECボタンを押して。そういうふうにラフな作り方をしたのが今回はとにかく多いです。
イサムさんはライブ同様、ギターに専念しているのでしようか?
ギターとシンセも結構弾いていましたね。彼がギターを弾けるので、極端な話“俺はこの曲弾かんでいいな”と思うことも多かったし。
その冷静で客観的な判断はソロという作品/ライブにおいてもモーサムとは別のアウトプットが生まれたことが大きい?
まあ、それもあるでしょうけど…。ぶっちゃけて言えば、レコーディングもモーサムが録っている上の階のスタジオで『窓』を録っている時期もあって(笑)。俺だけ“上の階で歌入れしてくるわ”とか抜け出したり。で、歌い終わってモーサムのスタジオに戻ったら1曲出来上がっていたとか。それくらい俺自身が力を抜いて臨んでいて。
ちなみにイサムさんは録りでもスタインバーガーがメイン?
そうですね。あれ1本で全編録っていたと思います。武井(靖典/b)もライブ同様にプレシジョン・ベース1本で…あいつが使い分けてるのなんか見たことないですね。シド・ヴィシャスか藤田かってくらいじゃないですか(笑)。僕はムスタングだったりテレキャスだったり。
先日の“百々和宏とテープエコーズ”@風林会館でGIBSON ES-335を使用しているのには驚きました。
ああ、実は持っていたんです。ライブでは怖くてなかなか登場する機会が無かったんですけど。
しかもライブ中盤ではピグノーズにプラグインして、歪ませた音をマイクで拾うという。335からあんなジャンクな音を出している人は初めて見ました(笑)。ちなみにモーサムの録りで使ったりはしないんですか?
色々と335を使うときは少しフォーキーな曲だったり、アルペジオを多用する曲で使用する曲が多いので。今回は使っていませんね。
『STRUGGLE』では初めてマーシャルを使っていましたが。
今回はそのスタジオにあるローランド JC120を使ったり。だから本当にその場のテンション、その場にある機材でっていう。なんかね、こだわるのも凄い嫌になったっていうか。
その境地へは何がそうさせたのでしょうか?
やっぱり自分の機材ってエフェクターも含め同じものを使っているので、飽きて来たわけじゃないですけど…感覚として予定調和感が出て来たというか。だから今回のレコーディングではそういうものも取っ払ったところでやってみたいと思っていて。スタジオにあるマーシャルに直で繋いで、JCも直でディストーションをフルにして鳴らしてみたり(笑)。なんか我ながらやりたい放題で、“こんなもんをメジャーで出して良いのかな?”って思うときもありましたけど。
スタッフ一同:(笑)。
まあ曲によってですよ(笑)。
“こういう作品にしたい”って指針を掲げることもなく。
メンバー個人個人としてはそれぞれ思いもあったとは思うんですけど、僕個人に関して言えば、その場その場で閃いて生まれたものをなるべくダイレクトに純度の高いままで料理しちゃうっていうのがありましたね。そういう感じでやりたいなって。なんか…そうですね、まあアルバム作りを近年の国内ロックの音と真逆で行きたかったってのはありましたね。良い意味でのジャンク加減っていうか。あとソロ作で音色とかをこだわり過ぎたので、その反動もあったかも知れないです。ギターの音色を決めるのにも時間を掛けましたし、アナログテープを使って録ったり…そういうところにも傾聴して『窓』は聴いて貰えればなと思うんですけど。なんかモーサムはそういう指先でやり過ぎるよりも直感的かつ肉体的、その場のノリを重視すべきだとも分かって。まあ、少しまとまってないくらいの方が面白いので。
「farewell party」は去年のリキッドでも演奏していましたが、全曲が出揃ったのは?
今年の3〜4月くらいですかね。今回収録されなかった楽曲も単純に完成にまで至らなかっただけというか、なんか最後の最後は5分で曲を作って、スタジオでセッションしてって感じでしたね。結局今回はジャッジも何も無くて、その場の勢いで完成にまで至れば収録、これはもう少し練りたいと思えば今回は保留にしてっていうシンプルな。
デモはどの程度固めて持ってくるんですか?
まあ、人によりけり曲によりけりなんですけど。ただある程度デモと完成形がそんなにかけ離れたものでは無くなってきていますね。言い換えれば各デモのクオリティが上がってきたというか。
ちなみに『窓』というソロ作を出したあとのアルバムが「Door」という曲で幕を開けるのは意識的なもんなんでしょうか?
(笑)。このタイトルに関して僕は一切関与していなくて、メンバーにお任せしていたら「Door」というタイトルになってましたね。意味深な狙いとか他意は無い…と思ってますけど(笑)。ただまあ全部タイトルは英語にしようかくらいは話していたんですけど。
イサムのギターが
段々と俺に似てきている(笑)
ちなみに百々さんが参加していない曲と言うと?
「CatPark」や「24 hour fighting people」「communication」はそうですね。
最新のアーティスト写真で言うと水野さんの存在感が凄いですもんね。“ヴォーカルかっ!”と突っ込みたくなるような。
完全に顔で選びましたからね(笑)。
『STRUGGLE』以降のライブで4人として固まってきたなって実感があるからこそですよね。
そうですね。最近またライブが良くなってきていますよ。やっと年の差っていうか、お互いへの遠慮が無くなってきたことが大きいと思いますし。4人で音を録るのも気兼ねなくバシバシ出来ましたし。
一応定位で言えば右がイサムさんで左が百々さんって感じでしょうか?
エンジニアは結構こだわっていたかも知れないけど…どうなんだろう? 俺は今回そういうところもこだわっていないから(笑)。でもそういう一応そういう定位が多いかも知れないですね。
基本的に今でもドロップDチューニングですよね?
そうですね。だからライブで「Hammmer」(『STRUGGLE』収録)をライブで演奏するときは6弦をC、5弦と4弦をレギュラーの1音下げする必要があるのでモズライトを使ってるんですよね。
と言うか「communication」で百々さん弾いていないんですね。アコギを重ねたり小技も効いているので、2人とも弾いているのかと思いました。
いや、あれは完全にイサムオンリーなんですよね。
百々さんから見て“ギタリスト、藤田勇”を敢えて訊きたいのですが。
もともとイサムは“THEギタリスト”本当にオーソドックスなギターを弾く奴だったんですよ。それこそモーサム結成前はギタリストとしてバンドをやっていて、エリック・クラプトンやジミー・ペイジとか…そういう王道どころを押さえていた人間で。今からすれば想像が付かないと思いますけど(笑)。本当にスタンダードな理路整然としたギターソロを弾いていて、俺なんかは“古臭えなあ”とか思ってたんですけどね。それが段々とアヴァンギャルドな方向に進んでいって…。
トリッキーとはったりの究極みたいになってますよね(笑)。
でね、不思議なもんで最近は俺のギターと似て来ているような気がするんですよ(笑)。それはバンドでやっているところの面白さかも知れません。
テレキャスとムスタングを使い分ける際の基準は?
間奏でソロを弾くときは完全にムスタングですね。もうね、アームが付いているギターじゃないと不安なんですよ(笑)。もうね、16小節もあるギターソロだと半分はアーミングで誤摩化せば良いと思ってるんで(笑)。で、リフものとかはテレキャスかモズライトを使うことが多いですね。ムスタングよりもレンジが広いので。
ムスタングのアーミングはチューニングが狂う弊害もあると思いますが。
それは付き合っていくしかないですね。俺もこまめにメンテナンスに出しています、やっぱり自分でやるには限界があるので。ネックの調整や弦高も含めるとシビアな世界で、トータル的に見てくれる人がいるので“狂い出したかな”と感じたらメンテナンスに出すようにしています。
ライブでツインギターになることを念頭に、音作りやプレイで変わったことってあります?
…うーん、意識しなくてもライブ機材が俺とイサムではまったく違うので。俺はムスタングとフェンダーのコンボ、イサムはスタインバーガーとマーシャル。そこは意識しなくても棲み分けが成されていて、良い感じに出来ているので。イサムがどっしりとローの効いたリフワークを主体にして、俺はその上でガンガンいくっていうか。
「born head dandy」のように百々さん作曲ナンバーでもシーケンスが入っている曲は、デモの段階から百々さんが入れているんですか?
そうですね。でも「born head〜」に関してはシーケンスはほとんど抜いたんじゃないかな。生で全部置き換えていて、シーケンスは残ってないと思いますよ。ループは使っていますけど、録り音は生です。あっ、この曲ですね。JCに直で突っ込んでギターを鳴らした曲は(笑)。
「Punks is already dead」のアーミングは凄いですね。
この曲は俺とイサムの好き放題ですね。まさにアーム合戦でした。
これ、イサムさんも弾いているんですね。百々さんが2本重ねてるのかと重いましたよ(笑)。
いや、だから本当に似てくるもんなんですよ。自分でも“俺こんなフレーズ弾いたっけな?”って聴き返していて思うくらいですから(笑)。
まさか「Anywhere(But Here)」間奏で聴けるLとRのハモりも2人で弾いているんですか?
そうそう(笑)。“…ハモろっか?”って提案してみて。まあ折角2人ギタリストがいるんだし。
ライブで聴けるのが楽しみです、是非向かい合って弾いてください(笑)。インストが3曲も入るのは久しぶりですね。
最初からインストを念頭に作ったのは「24〜」とかですね。「Door」は1回歌入れまでしたんですけど、やっぱりインストが良いんじゃないかと。
月並みな言い方ですが、ライブが楽しみですね。本当に最近のモーサムはステージが凄くなっているので。
凄くなっているのか、際限無くやりたい放題になっているのか…。単純に演奏自体の精度で言えば退化しているような気もしますけど(笑)。
実は結成15周年ですが…。感慨深さとか無いんですか?
…無いですね(笑)。15年やったからと言って箔がついたわけでもないし、偉そうにふんぞり返れる位置にもいないし…って言い続けられることが実は楽しかったりするんですけど。未だに若手の活きのいいバンドと対バンできるのは楽しいし、大御所とセッションできる機会にも恵まれて。
一昨年のARABAKIは凄かったですよね。これから対談して頂くヤマジさんはもちろん、チバさんにベンジーまで一同に介したステージだったわけですから。
そう。そっちに行くと完全に末っ子になるんですよ。だから15年って言ってもまだまだだなって気はしてますよ。
とは言え、同期のバンドはこの15年間で解散したところも多いじゃないですか。その中で紆余曲折を経ながらも、百々、武井、藤田のオリジナル・メンバーを含む形で、こんなにも刺激的な新作を聴かせてくれるって点においてモーサムは偉大だと思いますよ。
同期のバンド…確かに少なくなりましたねえ。まあ、俺ら自身も“いつまで続くかなあ”と思いながら続けて来た15年でしたけど。
でも『STRUGGLE』を経て、ましてこんなに暴れまくった新作が完成して。もうモーサムは解散しないバンドなんじゃないかと勝手に思っているんですけど。
いやあ、それは分かんないですよ。というか、変な安定感は絶対に持ちたくないし。ある程度の緊張感が無いとやっている意味も分かんなくなってるし。ただこんなに肩の力を抜いて作ったアルバムは確かに初めてでしたね、うん。
リリース・ツアーも10月に控えています。
これはソロのときも含め、事ある毎に言っているんですけど“CDかライブで迷っているなら、まずライブに来い!”と。CDは友達から借りて聴けば良いし、僕がそういう音楽との接し方をしてきたので、偉そうに“CD買え!”とは言えないかな(笑)。
じゃあ、変わりに言います。“CD買って、ライブに来い!”と。それでは対談に移ります。ありがとうございました!
Photo by TOMUJI OHTANI
※近日、ヤマジカズヒデ×百々和宏 Special Talk SessionのAnother Takeも掲載予定です!
Interview by KENTA TOGAWA
MO’SOME TONEBENDER
Strange Utopia Crazy Kitchen
日本コロムビア 7月18日発売
初回盤 CD+DVD COZP-703〜4 3,780円
通常盤 CD COCP-37458 2,940円
百々和宏
窓
日本コロムビア 発売中 2,625円
Strange Utopia Crazy Kitchen Tour
9月16日(日)千葉県 千葉LOOK
9月22日(土・祝)宮城県 仙台MACANA
9月23日(日)新潟県 新潟CLUB RIVERST
9月25日(火)北海道 札幌BESSIE HALL
9月29日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
10月1日(月)香川県 高松DIME
10月3日(水)鹿児島県 鹿児島SR HALL
10月4日(木)福岡県 DRUM Be-1
10月6日(土)岡山県 岡山PEPPERLAND
10月7日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
10月8日(月・祝)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
10月13日(土)東京都 LIQUIDROOM ebisu
http://mosome.com/
2012年7月14日