8月2日(木)発売Player9月号のソフトウェア特集では“THIS IS MY PARTNER 〜私を支える個人的銘器〜”が進行中(※7月2日(月)発売の8月号ではありません)。トレードマークとも呼べるほど愛着のあるギターとの馴れ初め/上手な付き合い方/辿り着いたサウンドメイキングの極意などなど、長年連れ添ったパートナーについて、じっくりとお話を伺っています。ここでは特集用取材の際にお訊きした各アーティストの新作についてのインタビューを随時掲載予定! 渡辺俊美さん(http://ymmplayer.seesaa.net/article/273580789.html)、SISTER JETのワタルS(vo,g)さん(http://ymmplayer.seesaa.net/article/277758869.html)に続き、第3弾は長澤知之さん(ファンの方が読めば“長澤くんらしいな〜”と思って頂ける内容になりました。是非お楽しみに)!
6月6日(水)にミニアルバム『SEVEN』をリリースした長澤知之。鮮やかな全7色(曲)で描かれた本作は、各曲が独立した強さを持っている。しかし、それらすべてが分離することなく固い結びつきで流れていく様は、冒頭「あんまり素敵じゃない世界」で歌われる虹そのものだ。サウンド自体を捉えれば過去の作品よりも穏やかな印象を受けがちだが、日々の生活へ徐々に浸透していく言葉とメロディはやはり唯一無比。何より他者と音楽を紡いでいく喜びに目覚めた長澤が、至るところに確認できることが嬉しい。各メディアの取材を一通り終え、ややリラックスしたムードの中で長澤と話をした。
長澤知之「あんまり素敵じゃない世界」
等身大って言うと陳腐だけど
ありのままの僕が見て感じる世界を歌に
一生付き合える全7曲なんですが。
おっ、嬉しい! ありがとう。
長澤さん自身にとっても一生歌える7曲なんじゃないですか。
体力的に厳しくなるだろう曲はあるけどね(笑)。でも感情的にはフラットな面も強いし、確かにそういうところはあるかも。
今回のアルバム、音を聴かせて頂く前の…クレジットに目を通した段階で嬉しかったことがあって。1曲目の「あんまり素敵じゃない世界」で佐藤洋介(COIL)さんがギターを弾いているという。
ああ、なるほど。そう言ってもらえると有り難い。
別に“長澤さん以外のギターが聴きたい!”ってわけじゃなくて、今まで頑なにギターは,自分で弾いていたじゃないですか。歌に次ぐ自己表現のツールとして。それを他者に委ねたっていうことが…。
自分の中では極自然な流れで、難しい言い方じゃなくて軽く洋介さんに“ギターソロ弾いてくれない?”とお願いしていて。そしたら洋介さんも快くOKしてくれたんです。一応“こういう感じで弾いて欲しい”とは伝えたけど、洋介さんの良さが滲み出るようなギターを弾いてくれて。そこで音楽を純粋に楽しめたっていうのは今回大きいかも。同じように「幸せへの片思い」でも益子(樹/ROVO、DUB SQUAD)さんにギターを軽く入れてもらったりしたし。
それこそ『PAPER STAR』(07年)の頃は考えられなかったですよね。
うん、考えられなかった。それは単純に信じられる人が増えてきたこともあるけど、今回は自分以外の色が欲しくって。それを許せる、楽しめる余裕が自分の中で生まれたってことかな。『JUNKLIFE』(11年)を作り終えて、ある意味背負っていたものが降りたって気持ちもあるし。
「捨て猫とカラス」や「はぐれ雲けもの道ひとり旅」のように、昔から原型のあった曲って今回はあります?
昔のアイディアを詰め込むってのはあったけど、基本的には新しい曲ばかりですね。
その所為か各曲が鮮やかで独立した輝きを持ちながら、しっかりと結束したようなところがありますもんね。タイトル『SEVEN』や、「あんまり素敵じゃない世界」の歌い出し“虹 僕は虹を刻む”のように今回の虹のイメージは早い段階で?
うん。なるべくアルバム・タイトルは作品全体を象徴するような言葉、テーマになるものにしたいなとは昔から思っていて。『JUNKLIFE』だったらゴチャゴチャとした極彩色の中で、それぞれの個を放つような作品。『SEVEN』だったら1本のアーチを描く中で、1曲1曲がハッキリとしたヴィヴィッドな感じにしたくって。
それは「あんまり素敵じゃない世界」が完成した後に見えた景色ですか?
いや、僕の場合は先にテーマやタイトル有りきで作っていくので。もちろん1曲目は切り込み隊長として全体を象徴するような曲になればとは思うけど。
と言うか、ちゃんとテーマみたいなことを喋ってくれる人って珍しいです。そういうことを訊くと“無い”とはね除ける人や“聴いてくれた人が付ければいい”ってパターンも多いですよ。
へえ〜、不貞腐れちゃうのかな(笑)? 寧ろ“テーマがないことがテーマだ!”みたいな? 少なくとも僕はそんなタイプじゃないけど。『SEVEN』ってタイトル、テーマを付けたからには最初に誤解されないように歌い出しを“虹”にして。だから「あんまり素敵じゃない世界」は早い段階で完成した『SEVEN』のテーマソング…テーマソングって響き滅茶苦茶ダサいな(笑)。
(笑)。でもつくづく素敵な歌詞ですよね。締めの“まだあんまり素敵じゃない世界で”の“まだ”に救われます。
うん。なんか漠然とハッピーエンドを感じさせる歌にしたくて。確かに“まだ”が無いと世の中を憂いているだけの歌になるからね。そういうふうに世界が良くなると信じていた方が楽しいし、音楽をやることも楽しい。救われるって言葉にしたくて。等身大って言うと陳腐だけど、ありのままの僕が見て感じる世界を歌にした感じです。
話は遡りますが今年1月の「ライド6」からバンド・メンバーが一新されたわけで。『SEVEN』もそれに伴って多彩な参加陣です。単純に新たなメンバーと作品やライブを作り上げる新鮮さって感じてます?
うーん、もちろん分かってくれてるとは思うけど…やっぱり初対面の人のいきなり和気藹々と出来る人間じゃないから(笑)。始めはどう話しかけて良いかさえも分からないし、まして皆さん僕よりも年上のベテランだし。“こういう感じでお願いします”とは言うけど、ただ伝えることに時間はかかって…そこには最初苦労したかな。でも一緒に音を鳴らすと単純に“カッケー!”って思えるし。そうなってからは早いですね、イメージを伝えるのも。
引き続き須藤さんはベース、ドラムで参加していますね。最も長澤さんの抽象的なイメージを汲み取ってくれる存在ですか?
いや、寧ろ逆かな(笑)。凄く理性的に数学的に考えてくれるから、僕に足りないものを補ってくれる存在。そういう意味で有り難いんですよね。僕の抽象的なイメージを汲んで、具現化してくるって面では益子さんだったかな。洋介さんもそうだけど、まったく音楽的じゃない説明の仕方…例えば“母胎の中にいる子供が聴いているような”みたいに無茶苦茶なイメージの伝え方でも形にしてくれる人で。
そういう意味で周りの人との距離を縮める方法や早さにおいて、やっぱり昔とは変わりましたよね。
自分で言うのもあれだけど少し変われたかな。ほんのちょっと成長したとも思うし。
TRICERATOPSの吉田さんが2曲で叩いていますが、これは「ライド6」がきっかけですよね。
うん。あのときに“良かったらドラム叩いてくれませんか?”ってお願いしたら引き受けてくれて。トライセラをずっと聴いてきて吉田さんのドラムは好きだったし、何よりその場にいてくれるだけで周囲を和ませる魅力のある人で。やっぱりレコーディングの現場で嫌な思いはしたくないから。
そりゃそうです(笑)。
出来れば和やかにやりたいし。で、吉田さんは色んなパターンが叩けて、パワフルだし。その上で思いやりがある…そこが僕にとって魅力的だった。
TOKIEさんはバンド・メンバーとして「ライド6」でステージを共にしていましたが。
最初はさっきの“何を話していいのか分からない”の究極だった(笑)。やっぱり女性ってのが上乗せされてるし、接点も今までなくて。でも今回はTOKIEさんの方から“一緒にやらない?”と声をかけてくれて。それが嬉しくて…あっ、でも嬉しかったからこそどう伝えて良いか分かんなくて。ライブをやり終えてから徐々にコミュニケーションは出来るようになったかな。
ビートルズをコピーしていた頃みたいな
原始的で純粋な楽しさがありましたね
多くの人と編み上げることで、自分の思いもよらない方向へ転がることを望んだ面も強いんでしょうか?
そうですね。考え方を変えたのは、自分が聴いてきた、自分の中にある音楽のバパラエティは絶対に信じているんだけど。他の人が観てきた景色や経験、育まれてきた音楽も素晴らしいものだと思えるようになったし。だったらその色も自分の中に投影しないと勿体無いし、きっと面白いなと思って。
じゃあ基本的に演奏は各プレイヤーにお任せで。
うん。“大体こういう構成でございやす!”ってお渡しして。その人なりの解釈で染めてくれても良いと思えたし。
最も脳内完成予定図から離れた曲ってどれですか? 勿論良い意味で。
「幸せへの片思い」かな。益子さんのシンセイザーが素敵で。…益子さん、実は自分にとっての第一印象があまり良くなくって(笑)。正直、“この人と一緒に出来るかな…”と思っていたくらいなんだけど。凄く柔軟な方で、僕の出したい空気感も見事に音にしてくれて。本当に感謝です。
あらきゆうこ(ds,per)さんとは以前から面識はあったんですよね。
ゆうこさんは吉田さんと一緒で、人間としての雰囲気が柔らかな方で。いてくれるだけで現場の空気を和やかにしてくれるんですよね。そういう場だと意見交換も活発にやりやすいし。発想もリラックスして生まれるし、とても楽になれる存在ですね。
「静かな生活」「幸せへの片思い」、遡るとシングル『カスミソウ』収録の3曲もアコギを主体にした曲も目立ちます。
自分の中では昔からそうですけどね。「ベテルギウス」もアコギ+ピアノだし。結局僕はバンドには憧れていたけど、根は弾き語りのスタイルだから。シンガーソングライターとして+αってイメージは今もある。ギター1本の弾き語りで通用するような状態で、それに何か彩りを加えていく。それは凄く生々しいし、自分自身好きな形で。
長澤知之「カスミソウ」 2012.1.15 Live Ver. (ライド6 at 新宿BLAZE)
獏とした訊き方ですけど、今回フラットに楽しめたんじゃないですか?
うん、色々と時間もかけたけど、その分楽しかった。
楽しくなかった時期ってあるんですか?
『JUNKLIFE』を作っているときは楽しくなかったよ。凄くイライラしていたし、本当にフルアルバム作るってことは、それほど精神を摩耗していくことで。楽しむって余裕は無かったなあ。個人的にミニアルバムが好きってのはそういうことで。フルアルバムを作るときは、それこそ『JUNKLIFE』じゃないけど、頭の中で色んな感情が入り乱れて。
じゃあ余計に今回はその反動があったと。
そうだね。曲を作り始めた段階から“今回は音楽を楽しむ作品にしよう”って思いから転がっていって。本当に初めてビートルズをコピーしていた頃みたいな原始的で純粋な楽しさがありましたね。
冒頭に僕が伝えた“一生付き合える”っていうのは、そういう空気が伝わってきたからかも知れません。年齢や精神的コンディションを問わず、常に聴き続けられるムードがあるような気がします。
そうだとしたら嬉しいです。ありがとうございます。
いえいえ、こちらこそありがとうございます(笑)。正直、長澤知之という存在が儚く思える時期もあって。ライブを観る度、新作を聴く度に“これが最後なんじゃないか…”っていう漠然とした不安がありました。でもここ最近のライブと『SEVEN』は凄く頼もしい。
まあ“いつでも辞めてやるよ!”って気持ちでやっていた時期もあるからね、実際(笑)。
だからこそ「バベル」の“これからも続いていく”感じがするラストが好きです。
「バベル」は希望の歌ですね。でも「センチメンタルフリーク」や「決別」は前向きとは言えない曲だし、やっぱり人間だから揺れるし、浮くし沈むし。そういう自分を含めて「あんまり素敵じゃない世界」になるなあと、人生は。
個人的には「決別」が一番好きです。展開も勿論、歌詞に初聴きのタイミングとがっつりシンクロしてしまいまして…。
ありがとう。僕の音楽の味方なんだなあって感じる。
まだ敵/味方っていう考えはあります?
ないことはないですよ。でも周りの人が信じられるようになったし、酒も呑めるようになったし。関係性も積み重なりを感じると素敵なもんだなと思うし。
そうやって変わっていくことで、心境的に歌えなくなる曲も出てきそうですね。
でしょうね。それでも好きだって言ってくれる人の為にライブで歌うことはあると思うけど、それは単純にステージで歌っているだけで…なんて言うんだろう、自発的な感情で“この曲を歌いたい”って思うことが少なくなってる曲もありますね。
でも自分の曲に対してズレや違和感を感じられることって素敵じゃありませんか? それは成長の証しだと思うし、とても誠実な在り方だと思います。
うん、それはそれで。そこまで真剣に考えてなくて、当人としてはボケーっとしてると こもありますけど(笑)。
オフィシャルHPを見る限り、今回ギターも色々使っていますね。
借りたりもしましたからね。この曲はこういう音の世界感を鳴らしたいなってときは、例えば「されど木馬」だったらテレキャスを鳴らしてみたり。その上に最近メインで使っているセミアコで柔らかい音を重ねたりとか。
改めて長澤さんのギターって独特のムードが滲み出てますよね。一音だけ聴いても分かる自信ありますよ。
上村マネージャー:色気がありますよね。僕も今回から長澤の担当について、やっぱり初めて刺激される感覚が長澤のギターにはあると思います。うん、色気…って言われても気持ち悪いと思うけど。
いやいや、ありがとうございます(笑)。でも表現方法としてギターに固執する気はまったくなくて。もっと自分の声が素敵になったらできることの幅も広がるかなって。例えばあそこにあるピアノとか他の楽器を弾きながら歌ってみたりとか。せっかく柔軟にできる環境だから、あまり限定はしたくない。
“自分の声が素敵になったら”ってのが引っ掛かります。少なくとも素敵だと思っている1人として。
でも“嫌い”って人もいるからさ。
それは“素敵”の尺度にならないですし、誰にも嫌われない歌い手が素晴らしいとは思いませんが。
うん。けどオセロで言うと、仮に63枚が自分の色になっていたとしても裏返ってない1枚ばっかりが気になる。どうにかして裏返してやりたいと思うし。
“はいはいはい”とは流せない(笑)?
なんか逆ギレみたくシャウトで攻撃したくなる(笑)。もちろん好きって言ってくれる人がいるのは嬉しいし、それこそ「あんまり素敵じゃない世界」みたいに自分でも自分の声が“大好きだ!”って思えるときもあれば、逆も当然あって。ただいつか年を取って自信が付いたら、何か他の音楽の伝え方も出来るんじゃないかとは思う。
…うーん。そういう意味で長澤さんの理想的な歌い手って誰ですか?
ジャニス・ジョップリンと井上陽水さんですね。特に陽水さんも歌声は独特じゃないですか。それを巧く音楽に昇華させて、大勢の人に愛されていることが僕にとって凄く頼りになる。
そう言えばFM802の「MUSIC FREAKS」で、ねごとの蒼山幸子(vo,key)さんと「帰れない二人」をカバーしていましたよね。現在展開中の“Nagasa・Oneman7 Acoustic Ver."でもカバー曲をやっているようですし、10月から始まる“Band Ver.”も含めて楽しみにしてます!
やっぱりアコギ1本で歌いたい曲ってのも段々と増えてきて。昔のようにバンド・セットの合間に弾き語りコーナーを設けるだけでは消化しきれなくなって。だから完全に分けることで、それぞれの良さも思う存分出せると思うし。
特に今回『SEVEN』はアコギ1本で成立する曲も多いですし。
そうだね。アコギ1本から生まれた曲ばかりだから必然的に。
“まさかこの曲をアコギ1本で演奏するか!?”って面白さも長澤さんの場合はありますけど。「EXISTAR」や「死神コール」まで完璧にやってしまうわけですから。
「死神コール」はお客さんからのリクエストだから内心ビックリしながら演奏していましたけどね。まあ完璧にやっているように見えたなら良かったです(笑)。
Live Photo by MAKOTO SUGITA
Interview by KENTA TOGAWA
長澤知之
SEVEN
ATSUGUA RECORDS/オフィスオーガスタ
初回限定盤 CD+DVD 2,500円
通常盤 CD ATS-040 2,000円
「Nagasa・Oneman 7 Acoustic Ver.」
6/21(木)広島 Live Juke
6/24(日)札幌 CROSS ROADS
6/27(水)仙台 LIVE HOUSE PARK SQUARE
6/30(土)福岡 照和
7/1(日)高松 RUFF HOUSE
7/3(火)名古屋 TOKUZO
7/6(金)渋谷 duo MUSIC EXCHANGE
7/10(火)新潟 Live Hall GOLDEN PIGS
7/13(金)福岡 照和
「Nagasa・Oneman 7 Band Ver.」
10/1(月)名古屋・アポロシアター
10/3(水)福岡・DRUM SON
10/5(金)大阪・Music Club JANUS
10/8(月・祝)東京・新宿BLAZE
2012年6月29日