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渡辺俊美 初のソロ名義作『としみはとしみ』を語る!

8月2日(木)発売Player9月号のソフトウェア特集では“THIS IS MY PARTNER 〜私を支える個人的銘器〜”が進行中(※7月2日発売8月号ではありません。8月号では“才能溢れる今注目の女性アーティスト特集Rising up Into The Spotlight!”が進行中。こちらもお楽しみに!)。トレードマークとも呼べるほど愛着のあるギターとの馴れ初め/上手な付き合い方/辿り着いたサウンドメイキングの極意などなど、長年連れ添ったパートナーについて、じっくりとお話を伺っています。ここでは特集用取材の際にお訊きした各アーティストの新作についてのインタビューを随時掲載予定! まず第1弾は6月13日(水)に『としみはとしみ』をリリースする渡辺俊美さんです!

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6月13日(水)にリリースされる渡辺俊美、初のソロ名義アルバム『としみはとしみ』。サウンド/メロディ/歌詞において装飾を排した、まさに“裸の渡辺俊美”が堪能できる珠玉の1枚だ。ソロワークで陥りがちな自己完結ではなく、エンジニアに吉田仁(SALON MUSIC)、共演陣にはERIBAKUが全面的サポートを務めるなど、従来には無かった手法でZOOT16ともTOKYO No.1 SOUL SETとも違う“渡辺俊美”を全12曲で聴かせてくれる。ZOOTのベスト盤とSOUL SETの新譜を経て、今改めて震災、故郷、自己と向き合った渡辺俊美に話を訊いた。

ミニマルでスマート、シンプルな音楽を

 まずは月並みな質問です。本名名義での作品はいつ頃から構想が?
 漠然と思いを抱いたのは、ZOOT16の『ヒズミカル』(2010)が完成したときですね。その頃から、「次作品を出すなら“渡辺俊美”としてだな」っていうのは考えていました。資本主義や社会に異を唱えることも、僕の中でロックやパンクの役割として大事にしたい気持ちもあるんですが、この歳になって自分自身と向き合うような作品が作りたかったんです。その為にはSOUL SETやZOOTではなく、本名を掲げて望むのが一番誠実かなと。
 SOUL SETはともかく、ZOOTはソロユニットゆえにフレキシブルに活動できる出来る場だったと思うんですが…。
 今回のソロ名義に関してはホーンセクションや華やかな音もいらないかなって気分だったんです。ずっとZOOT名義のGB VERSION(渡辺がギターとバスドラを同時演奏する弾き語りスタイル)ではライブやっていたんですが、自分でもホーンや他の上モノも欲しくなるわけですよ。それら有りきで作った曲なわけですから(笑)。で、今回は自分の歌を主軸にしようと思って。インストや単純な音のカッコ良さで魅せるっていうのは、ZOOTで一区切り完成した気がしているんですよ。だからミニマムでスマート、シンプルな音楽がやってみたくなったんですよね。
 その“ミニマムでスマート、シンプル”というのは、音楽のみならず最近の「人間・渡辺俊美」のモードでは?
 そうかも知れませんね。もうさすがに分かったんですよ。今更自分は武道館やアリーナを埋め尽くすことを目指すアーティストじゃないなって(笑)。今は20〜30人のお客さんの前で毎日ライブがしたい、そういうアーティストになりたい。そこで自分自身の思考もシンプルにする必要があると言うか。作品に関してもウッディ・アレンのように毎年何かしら出したいって気持ちが強くなっていますね。
 つまり今年2月にリリースされたZOOT16のベスト盤『Z16』は、俊美さんの中で一区切り、身辺整理のような意味合いも強かったのでしょうか?
 そういう側面も一方ではありましたけど、入門盤…もっと言えばいち作品として作りましたよ。実は『Z16』をリリースする前からベスト盤みたいなものはCD-Rに焼いてライブ会場なんかで配っていて。個人的に昔からそういうのが好きなんですよ、ミックステープを作ってみたり。“バンドやろうぜ!”って世代よりもDJが台頭してきた世代なので。だから『Z16』も自分で楽曲をセレクトすることはもちろん、BPMも意識してノンストップミックスにしていたり…。バンドをやりながらDJもやるって人は今でこそ珍しくないですけど、当時はどちらかでしたからね。
 『ヒズミカル』から『Z16』、TOKYO NO.1 SOUL SETの『Grinding Sound』を経て、遂に『としみはとしみ』が完成したわけですが、具体的に作品の青写真が定まったのはいつ頃でしょうか?
 やっぱりソロでやっている人との対バンから受ける刺激は大きかったですね。曽我部(恵一)くんや二階堂(和美)さんをはじめ、そういったアーティストに感服すると同時に、「翻って僕は“渡辺俊美”としてどんな歌が歌えるんだ?」ってことを結構悩んでいて。「俺にはあんなことは出来ないし、これしか出来ないし…」と。で、そうやって色々悩んでいるうちに「あっ、こういうのが一番駄目なんじゃないか」って気付いて。要はソロだからってひとりで悶々と考えていないで、もっと人に委ねたり、意見を取り入れることで“渡辺俊美”の輪郭がハッキリしたり、見たこともない自分が現れるんじゃないかなって。結局、誰とどうやっても僕は僕にしか成り得ないし。それが結果的にタイトルに繋がったというか。ちゃんと人の手が介入しても“としみはとしみ”ですよって(笑)。
 ミックスエンジニアを務めた吉田仁さんも、今作に彩りを加えた1人ですね。
 実は今回まで面識も無かったんです。もちろんフリッパーズやSALON MUSICで名前は知っていたんですけど。
 あっ、それは意外ですね。初タッグはいかがでしたか?
 最初は怖かったですね(笑)。いや、怖かったというかオーラが凄くて、堂々としているし。貫禄っていうんですかね。変な言い方ですけど仁さんにはずっとフェラチオされている気分でしたね。
 どういうことですか(笑)!?
 本当にされるがまま身を委ねてみたって言うか(笑)。普段ならこちらからも攻めるんですけど、完璧に今回は気持ち良くイカされっぱなしでしたね。
 なるほど(笑)。他にはERIBAKU(鍵盤奏者 Eri Konishiとギター奏者 BAKUによるユニット)さんが全面的に参加されていますね。こちらはどういった経緯で?
 漠とした言い方になりますけど、今回は愛のある人とやりたいって気持ちがあったんです。昔、地方で2人のライブがあって、まだ当時幼かった子供も連れて行っていい? と訊いたら快くOKしてくれて。そこでの子供に対する接し方のひとつひとつから優しさと愛を感じたんです。それでSOUL SETのレコーディングをERIちゃんに手伝って貰ったりするようになったんですけど、感覚が速いんですよね。こちらがイメージとして欲しいと思っている音を具現化してくれるレスポンスがとにかく速い。それから何回か仕事をしたり、打ち合わせ無しでセッションもしていて。とにかくグルーヴが合うんですよ。BAKUちゃんも優しくて。本当に本物の愛がある2人です。それと同時に音楽をちゃんと本業にしている人と作りたいって気持ちもあって。ZOOTではトランペットが吹ける暇な友人だったり、楽器も“出来る”仲間とやっていて。そこの緩さみたいなところも魅力だったんですけど、今回はしっかりとしたプレイヤーとやりたいなって。そこが基準でしたね。

自分の夢や希望、現実と
どう向き合って言葉を紡いでいくのか


 ここまで音数を絞った、シンプルな佇まいは正直意外でした。
 所謂J-POP然とした作りにはしたくなかったんですよ。曲の構成もAメロ、Bメロ、Cメロみたいな作りじゃなくて。「大袈裟じゃなくて良いじゃん、こんな力の抜けた音楽があっても良いんじゃない?」と思うし。それはERIBAKUと一緒にやる過程でドンドン強くなって。もし仁さんがエンジニアじゃなかったら、もっと僕のソロパートも多かったかも知れないですね。
 共作クレジット曲の組み立て方は?
 僕が「こういう曲がやりたい」って話をすると即興演奏で提示してくれて、そこにBAKUちゃんが入ってきたり。あとBAKUちゃんが「俊美さんにはこういう雰囲気の曲をやって欲しい」って持ってきてくれたりもしました。「安らぎの場所」のイントロなんかがそうですね。他はギターのコードワークだけ貰って僕がメロディを付けることもありました。
 緩やかに制作は進んでいったようですね。
 でも一番苦労したのは鍵盤の音色かな。デモの段階ではほとんどアコーディオンを使っていたんですけど、どうしても世界観が狭まってしまって。もっと広がりというか、ホールでやっているようなイメージも持たせたかったんです。歌っていることはパーソナルでシンプル、スマートでも、音の幅は持たせたかったし。チープな民族音楽っぽくなるのは嫌だったんですよ。レコーディングではアコーディオンをエレピに変えたりビブラフォンに変えたりと色々試しましたね。「rain stops, good-bye」だけは本物のグランドピアノでやりたかったので、スタジオで本当は使っちゃいけないグランドピアノを一発勝負でこっそり使いました(笑)。  
 昨年末から今年はSOUL SETでも多忙でしたよね。
 そうですね。だから今回のレコーディングはSOUL SETが終わってから…2月末からですね。デモ作りはERIちゃん家やBAKUちゃん家で何度かやっていたんですが。でも自分の中ではボーカルに時間をかけることが出来たので、実際の時間よりも贅沢なレコーディングだった印象はありますね。
 ZOOTと比較して曲作りの手法に変化は?
 メロディから作って組み立てていく方法は変わらないんですけど…歌詞、言葉選びには苦労しましたね。やっぱり震災以降、自分自身に対して「俊美は何を歌うのか?」っていうことが…。周りにどう思われるか、捉えられるかっていうよりも、やっぱり自分が歌うってことですから。変な話、人に歌詞を書くなら少しは楽に書けるんでしょうけど、一生自分で歌うんだって思うと。その辺が今までと一番異なりましたね。自分の夢や希望、現実とどう向き合って言葉を紡いでいくのかって。大変でしたけど楽しかったですね、貴重でした。ファミレスに籠って歌詞を書くって経験も今まで無かったですし。
 色んな思いが錯綜する中、何が是か非かも分からない中で、最初に生まれた曲は?
 2曲目「僕はここにいる」ですね。最初は「誰のせいでもない」っていうタイトルにしていたんですけど。…やっぱり理由や責任を誰かに擦り合っていても終わらねえなって気持ちがあって。お互い認め合うところから始めなきゃなって。
 2011年以降、政府や東京電力を批判するような歌やアクションもありましたけど、『としみはとしみ』にはそういった分かり易いプロテスト/レベルは皆無ですよね。
 もし僕がそういうアーティストだったら、震災前からそういう歌をとっくに歌っていたと思うんですよ。そこで今になって、変に正義を掲げ上げて歌うのも嘘だなと思ったし。何よりそれを掲げられなかった理由は、自分も福島の20q圏内で暮らしていて、原発が危険なものだとは分かっていたんです。そこへある種の加害者意識もあって。原発の恩恵で街も栄えていたし、友達も家を買ったり高い車を乗り回したり、そういう現実が確かにあったし。それを止められなかったって後悔も、純粋に故郷が奪われしまった悲しみもある。ただあの場所から放射能が流れ続ける以上は、100%被害者として怒りを歌うのは違うなって。その意味では自分の思いも、怒りやら謝罪やら…どっちもなんですよ。だからこそ、そのどっち付かずを出すべきだと思ったし…歌いたかったですね。
 そんな思いも含めて、裸、剥き出しの渡辺俊美がアートワークからも窺えますよね。
 この写真はポラロイドカメラで30枚くらい撮りました。この作品にまつわるものに関しては、変な装飾や加工は必要無いと思いましたし。まさか2人並ぶことになるとは思いませんでしたが(笑)。
 「死んでしまう事が…」と「ピノキオ」はからタイトルを変えてセルフカバーされていますね(オリジナル・タイトルは「死んでしまうことがわかっているなら」と「Lookin’4」)。
 「死んでしまう事が…」に関しては今の時代、皆まで言う必要もないかなと。その先は各々で感じ取ってもらいたいし、みんなの思い意見が入り込める余地にしたかったというか。この作品に収録するにあたって、価値観の押しつけではなく“僕はこうだよ”っていうのを言っているだけにしたかったんです。「ピノキオ」の原曲は10年以上前にありまして、その頃はカミさんもいることを踏まえての歌詞なので、若干の変更を加えています。で、この曲は息子への愛を歌った曲なんですが、僕の中で「ピノキオ」の存在や物語は無償の愛の結晶というイメージで。
 こう育って欲しいとか…。
 まったく無いんですよ。ただ存在してくれさえすれば良い。それ以上のことを僕は望まないし、本当にそれだけで幸せで。
 そんな最愛の息子さんの影響でカバーした「rain stops, good-bye」は、ニコニコ動画で人気を“におP”作曲によるVOCALOID使用楽曲ですね。
 息子が良く流しているのを何気なく聴いていて、段々と僕も好きになってきて。そうしたら息子が「お父さんも歌ってニコ動にアップしなよ(笑)」と。で、どうせやるなら真剣にやって父親としての威厳を見せてやろうって(笑)。その結果息子も感動して、画像も作ってすぐにアップしてくれたんですよ。ああいう発信の仕方や聴いてくれた人のダイレクトなレスポンスは僕としても新鮮で、凄く良かったと思いますね。
 そんな息子さんがいてこそのカバーもありつつ、「気絶するほど悩ましい」のカバーも艶気たっぷりでした。
 この曲は以前からライブでもやっていたんですが、BAKUちゃんも大好きってことで収録することにしました(インストVer.が現在、江崎グリコ「チーザ」のCMソングとして使用中)。そもそもこの曲に対する思い入れは強いんです。僕の6つ上の姉貴がこの曲が大好きで、ギターを始めたばかりの小学生の僕に、Fを押さえる登竜門として教えてくれた曲だったんです。そういう意味でも僕の原点的な曲でもありますね。まあ今聴いても阿久悠さんの歌詞は素晴らしいですね。
 そしてラストを飾るのは「夜の森」。俊美さんの故郷に対する思いが最も顕著に現れた楽曲ですね(渡辺の故郷は福島県双葉郡 富岡町字夜ノ森)。
 これが今作で最後にできた曲ですね。夜ノ森は桜の名所で、桜並木の長いトンネルができるほど美しい場所だったんです。今は20q圏内で帰ることも許されないんですが、4月の後半に桜並木をテレビで観ることができて。そのときに抱いた悲しみや悔しさだったり、改めて美しいと思う気持ちも引っ括めて歌にしたいなと思いまして。だからと言って暗い曲には絶対したくなかったんです。そしたら見事に仁さんがマリアッチ風に仕上げてくれて。こういう希望のある音でアルバムを締め括ることが出来たのは嬉しいですね。
 今後も“渡辺俊美”名義での制作・活動はライフワークとして続いていきそうですか?
 そうですね。アーティストとして、1人の人間としても意義のあることだと思いますし。漫画で言えば第1巻を発表したくらいの気持ちなので、まだまだ続けていきますよ!

Interview by KENTA TOGAWA

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渡辺俊美
としみはとしみ
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felicity cap-149 6月13日 3,000円

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ZOOT16
Z16
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TOKYO No.1 SOUL SET
Grinding Sound
avex trax AVCD-38453 発売中 3,000円

渡辺俊美 Official Web Site http://www.watanabetoshimi.com/

2012年6月6日