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松山千春 2011年秋コンサートツアー『愛の歌』レポート

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 『東京厚生年金会館ファイナル ファイナリスト』としてDVD化された単発公演や関東近辺のコンサートなどを除けば、松山千春のコンサートツアーにおいての東京公演は東京国際フォーラム2デイズが近年の恒例になっている。面白いのはそのコンサート内容で、根幹となるセットリストはありつつもどうやらたくさんの予備曲などがあり、ギタリスト丸山ももたろうにキーを指示して突然予定外の曲を歌い出したりする姿も珍しくなく、僕も近年何度とコンサートに通っているのだが毎回飽きない。抱腹絶倒のMC(説教?)も魅力。伸びやかかつ艶やかな抜群の歌声で3時間に迫るコンサートを見せてくれる。

 昨年クリスマスまで展開されていた2011年秋のコンサートツアー『愛の歌』。僕は11月29日の東京国際フォーラムA公演を拝見したが、近年のコンサートと異なっていた点は前半が松山千春のギター弾き語りで行なわれたこと。中盤から千春バンドを擁しての演奏となり、流れとしては東京厚生年金会館ファイナル公演に近い。開演時、緞帳が上がるとともにステージには椅子に腰掛けてゴダン・カスタムメイドのデュエット・ナイロンを爪弾く松山千春の姿。デビューアルバムのタイトル曲でもある名曲「君のために作った歌」だ。当初出力音のトラブルなどもあったが、トレードマークのツーフィンガー基調のアルペジオは健在。ナイロン弦ゆえのソフトで柔らかなサウンドと暖かみのある歌声がホールに響き渡る。「今日は結構古い曲行くけれど大丈夫か?」と悪戯っぽい笑顔を浮かべて語った後には、アルペジオの序盤を経て軽やかなストロークで「時のいたずら」を歌い上げる。オーディエンスが手拍子で応えるのを、「ギターの調子は悪いが体調は万全なんだ」と言ってさらに喝采を浴びる千春。大きいホールだろうが、客席と対話するようなステージ運びも彼ならではのステージングだ。

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 この第一部では千春のギター史を彩るギターが5本ほどバックにズラリと並べていた。「(スティール弦だと)指痛くてさ」などと語り茶目っ気を発揮していたが、「貴方への愛」からはヤマハ・カスタムメイドによる松山千春モデル“天・地”に持ち替える。現在Terry's Terryで高品質のアコギを輩出しているテリー中本氏がヤマハ時代に手掛けたものであり、ブラックの漆塗りフィニッシュの豪華な仕様だ。千春自身のMCにもあったが指板にはなんと象牙を使用、北海道の地形を型どったインレイが施されるなど、材料面の側面でもまず同じ仕様のギターを作ることはこの先難しいだろうという1本。アルペジオで「貴方への愛」を歌った後、ルート音のクリシェが印象的なストロークプレイで「愛って呼べるほどのもんじゃない」も披露。続く「祈り」からはバンドを擁してのステージへと展開していったが、個人的に弾き語りを観たのは08年秋のツアー「天才」以来だったので嬉しかった。

 バンドセットでは松山千春の“陽”の要素が色濃く出た「愛の歌」で得意のロングトーンを響かせて、その後には五木ひろしとの共演の話題が契機となり、急遽セットリスト予定外だったワルツナンバー「慕う」を歌い上げてみせる。こういうサプライズこそ彼のコンサートの真骨頂。バンドリーダー夏目一朗がこの日体調不良で欠席だったゆえ、「幸せ」のバンドメンバーによるコーラスパートはちょっと頼りなかったものの、「最後のチャンス」「残照」「君を忘れない」など、震災以後どうにも沈む僕らを元気づけるかのような楽曲が続く。今回のツアーは体調が良いようで、いつにも増してゆったりとステージを展開しているようだった。そして当然の如く歌声が絶好調で、オフマイク気味に歌う得意のパフォーマンスにおいても声量が足りなくなることはない。言葉ひとつひとつを僕らの胸に刻みつけるような歌唱だ。

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 アンコールも長丁場。丸山ももたろうの力強く豪快なストロークプレイ、ソロプレイがフィーチャーされた「北風」、“俺の人生 このまま終わりはしない”と歌い上げるブギーナンバー「俺の人生」など、手拍子とスタンディングオベーションが千春を待ち受ける。さらに観どころだったのは“ももちゃん、Em”と指示して「人生の空から」をももたろうのアコギ1本をバックに歌い上げてみせた場面。さらに“ももちゃん、Em”と「季節の中で」、またもや“ももちゃん、Em”と「銀の雨」、そして“A(アー)”で「恋」も披露。「これはサービス残業ですから」などと言って喝采を浴びる。この辺りも前述同様にまったくのセットリスト外のこと。そして恒例「長い夜」は多くのひとが立ち上がり合唱していた。Wアンコールでは好永立彦のシングルコイルサウンドによるオブリカートも印象に残った「雪化粧」が披露されて、ステージに雪が降るという演出でのエンディング。「どもっ!」と力強い挨拶とともにマイクを落とす千春だった…。

 08年には不安定狭心症で療養生活を強いられた松山千春ではあるが、復活後のステージは非常にパワフルである。フォークシンガーである立脚点を常に意識しつつも、近年のアルバムには多彩な音楽性へのアプローチも顕著。アコースティック色の持ち味はもとより、スカナンバーやレゲエ、ゴスペル、カンツォーネ、中国の古楽を取り入れたアレンジなど、一連の代表曲の印象でしか知らないひとは聴いたら驚くはず。冒険的とも思えるサウンドアプローチでもちゃんとスタンダード性を感じさせる楽曲に仕上がるのは、やはり唯一無二の千春のヴォーカリゼーションがあってこそであり、また歌詞においても過剰な装飾を避けて率直な詞表現も目立っている。デビュー35年を迎えても相変わらずの千春の挑戦は続いており、今年は『ずうっと一緒』以来となるオリジナルアルバムにも期待したいところだ。

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35th Anniversary 松山千春の世界 Chiharu Matsuyama Selection【初回生産限定盤】COCP-37188-91¥10,500(税込)
35th Anniversary 松山千春の世界 Chiharu Matsuyama Selection【通常盤】COCP-37192-5¥8,400(税込)

http://columbia.jp/chiharu35/

 またデビュー35周年を記念して、松山千春自身の選曲による4枚組CDによるボックスセット『35th Anniversary 松山千春の世界 Chiharu Matsuyama Selection』が1月25日に日本コロムビアより発売された。「旅立ち」「大空と大地の中で」「銀の雨」「恋」「季節の中で」「長い夜」「君を忘れない」など、レコード会社の垣根を超えた数々のヒットナンバーはもとより、シンガーソングライターとしての様々なトライアルがパッケージされた全63曲を収録。松山千春の足取りをつかむ契機として良いお供になる作品ではないか。

 なお松山千春はFM NACK5 / 毎週日曜日 21:00〜22:00のほか、全国の様々なラジオ局にて「松山千春 On The Radio」を放送しているが(放送日、時間は放送局によって異なる)、1月29日(日)「松山千春 On The Radio」放送後の深夜25:00〜29:00にはFM NACK5で特番「NACK5 Special 松山千春デビュー35周年記念『松山千春の世界』」が放送されることも決定。ボックスセット『35th Anniversary 松山千春の世界 Chiharu Matsuyama Selection』発売を記念して、数々の名曲がたっぷりとかかる4時間となりそう。日曜深夜ということでベッドに横になりながら耳を傾けてみたらいかが…?

Text by KAZUTAKA KITAMURA
2012年1月28日